第13話 末永く結婚しろ
帝国内では、最近演劇が流行っているらしい。
劇場ではほぼ毎日公演が行われていて、特にカップルに人気がある。
一番多いのは恋愛を題材にした劇のようだ。
それを聞いた俺は閃いたのだ。
この劇のチケットを渡せば、推しカプにデートさせることができるのではないだろうか……?
そうと決まれば行動あるのみ。
人気がある分値段も高かったが、そこはお布施だと思って我慢。
金に物を言わせてチケットを購入した。
内心のウキウキを隠しながら、俺はチケットを持ってリオグレンの元へと向かった。
「はい、これ」
「えっと、これは……?」
「演劇のチケット。ローラを誘ってデートに行って」
「えっ!? そんな、きゅ、急にデートなんて……」
顔を赤くして動揺するリオ。
おい、そういうのはローラとやれ。
ずっと慌ただしくて、ゆっくりデートできるような状況ではなかっただろう。
これを機に2人の仲を深めて欲しい。
「とにかく、はい」
「あ、ちょっ……」
チケットをグイグイと押し付けて握らせる。
渋々受け取った彼に、俺はサムズアップした。
「男を見せろ」
「……ブルームさんって結構強引だよね」
今更気づいたのか?
◇
演劇の当日。
リオとローラの2人が劇場へと並んで歩いて行くのを確認した俺は、最低限の変装を済ませると彼らの後ろから劇場へと向かった。
ククッ……俺が買ったチケットは計3枚。2枚をリオに渡し、後ろの方に俺が座り観察するという算段なのだ!
『死神の眼』だと建物の中は見えないからな。これも推し活の一環である。
席に座った2人の姿を確認して、俺も自分の席につく。
だいたい3列くらい後ろなので、彼らがこちらに気づくことはないだろう。
上演前の劇場には独特な雰囲気がある。
薄暗くなった室内。観客は声を潜めてぽつぽつと会話している。
ローラが隣の席のリオへと顔を近づけて話し始める。
「こういうの、初めてだから緊張するね」
「そうだね、僕らの町にはなかったから……」
小声で話すローラの吐息が耳に入ったのだろうか、リオがくすぐったそうに身じろぎする。
それを見たローラは小さな笑い声を漏らした。
「ふふっ、今日のリオ、なんか大人に見えるね。着てる服が違うからかな?」
「えっ!? ははっ……」
……い、いけリオ!
流れでローラの服を褒めるチャンスだ! いけえええええ!
「ロ、ローラもいつもより綺麗に見えるよ」
「えっ……あ、ありがとう」
うおおおおお! よくやったあああああ!
ローラは顔を背けてぼそぼそと礼を言い、リオも自分の言ったことが恥ずかしくなったのか下を向いている。
ローラはこの日の為にフレンにも頼んで服を買っていた。
きちんと褒めてもらって嬉しかったのだろう。
リオの方もギルにアドバイスをもらいながら服を新調したようだ。
都会っぽい服にこだわる様子は2人とも微笑ましいものだった。
演劇が始まると、観客は会話をやめて劇に集中し始めた。
大きなストーリーラインは身分差を乗り越えて結婚する2人、といったものだ。
俺は劇の内容を把握しつつもリオとローラの反応を注視した。
俺にとっては推しカプの恋愛模様こそが最も関心のあるショーだ。
ローラは舞台上のキラキラした恋愛に目を輝かせている。
対してリオは、そんなローラの様子をチラチラ見て楽しんでいるようだった。
ああ、その様子を見れただけでチケットを買ったかいがあったってもんだ……。
感謝……。
「面白かったね!」
「うん、そうだね」
劇場の外まで出ると、ローラが早速劇の感想を言い始める。
リオはそれに相槌を打ちながら笑っていた。
そして俺はその後ろでニヤニヤしていた。
劇が思ったよりローラに受けたみたいで良かった。
リオについては基本的にローラが大好きなので、彼女が満足していればそれで満足だろう。
推しカプのオタクとして、推しの恋愛に貢献してしまったぜ……と勝手に満足感に浸っていると、リオが何やら恐る恐る口にした。
「その、さ……この後レストランを予約しているんだけど、一緒にどうかな?」
「……え? ……うん、分かった!」
馬鹿な……俺の計画にはそんなものなかったぞ……!
劇場に誘うだけでもあたふたしてたのに、リオが自らディナーに誘うなんて考えてもみなかった。
フフ、やるじゃないか。
それでこそローラのパートナーだ。末永く結婚しろ。
リオの先導で辿り着いたのは、結構高級そうなレストランだった。
イメージとしてはフレンチのレストランが近いかもしれない。
綺麗なガラス張りの壁。テーブルクロスの敷かれた席には、ナイフとフォークが既に置かれている。
立派な制服に身を包んだ店員の態度は丁寧だ。
「こちらへどうぞ」
店員に席を引かれ、おっかなびっくり座る2人。
前菜を持ってきて、店員は奥へと引っ込んでいった。
緊張でガチガチになっていた2人はようやく会話を始める。
……ちなみに俺は、そんな2人をガラス張りの壁の外から見ている。
ちょうどいい所に茂みがあったので、そこに身を隠しているのだ。
傍から見れば言い訳の余地のない不審者である。
「ローラ、美味しい?」
「えっ……? あはは、緊張で味が分からなくなっちゃったかも」
読める……読めるぞ……!
この距離なら読唇術で会話の内容が分かる!
俺が茂みの中で感動に打ち震えている間にも、2人の会話は進んでいく。
「緊張、たしかにね。僕も予約に来た時とか心臓バクバクだったよ」
「あはは! リオも緊張してたって思ったらちょっと楽になったかも」
そんな会話をしながら前菜を食べていると、店員が他の料理を持ってくる。
「なんか今日1日でリオが遠くに行っちゃったような気がしてたから、安心した」
「遠くに?」
ローラは遠い目をしてグラスの縁をそっとなぞった。
その様子がやけに大人びていて、リオは少し顔を赤くする。
「私の知らないところに沢山連れていってくれたでしょ? 今まで同じものを見て育ってきたのに、リオはもう変わっていってるんだなあって」
「――そ、そんなの、僕だって一緒だよ」
「え?」
ローラが目を丸くすると、先ほどまでの大人びた雰囲気が霧散する。
「ローラが知らない服とかアクセサリーとか持ってるのを見ると、意味もなくモヤモヤしてた。だから今日は背伸びをして、ローラに追いつきたいって思ってた」
「……」
リオの言葉を聞いたローラはしばらく目を丸くしたまま黙っていた。
やがて、彼女は朗らかに笑った。
「あはっ……あははは! なんだ。私たち、やっぱり似た者同士だね」
「ハハッ、そうだね」
それから、2人の雰囲気は変わった気がする。
微妙な緊張感があったものから、いつもの2人へ。
一般論として、デートというなら少しくらい緊張感がある方がいいかもしれない。
けれど、あの2人にはあの雰囲気の方が合っている気がする。
同じ場所で生まれ育った幼馴染2人。そこには、彼らだけの距離感や空気感があるのだから。
……てえてえ。
茂みの中に隠れたまま、俺は1人感動していた。




