第12話 おめかし
「ブルームさん、美味しかったのでこれ食べてください!」
「……うん」
最近、事あるごとにフレンが俺に食事を与えてくる。
小さくカットされた野菜だとか、食べやすいものばかりなので断り切れずに食べさせられている。
「美味しいですか?」
「まあまあ」
フレンは俺が食べるとひどく満足そうな様子を見せる。
あれか、路上の鳩にエサをあげるみたいな楽しさか。
俺はそうやって納得することにした。
「ブルームさん、お出かけしませんか?」
俺が完食したのを確認すると、ニコニコ笑顔のフレンはそう言った。
「……ギルと行ってきたら?」
「私はブルームさんと行きたいんです」
クッ、推しカプでお出かけする様を観察していたかったのに……。
フレンのカップリングはギルだ。これは譲れない。
「……分かった」
「はい!」
渋々と肯定すると花が咲いたみたいな笑顔を見せるフレン。
ぐぬぬ……ギルといい感じになって欲しいのに。
俺の推しカプその2、ギル×フレンは後半から仲良くなってくるタイプだ。
けれど、一刻も早く推しカプのエネルギーを摂取したい俺は少しでも2人の仲を取り持とうと努力していたのだ。
まあ、全然うまくいっていないのだが……。
フレンと並び歩いて外へと出る。
シチュエーションはソウライのファンであれば感激ものだろう。
俺も嬉しい。
ただ、カプ厨的にはできればフレンには俺じゃなく他の仲間と仲良くしてもえるともっと嬉しいというか……。
「ブルームさん見てください! あのデザインの髪飾りは、最近の帝国の流行りだそうですよ」
「そうなんだ」
石畳の大通りの脇、露店を指差してフレンは言った。
色とりどりの髪飾りが店頭に並べられていて、女性客が並んでいる。
俺には縁のない店だな。
「やはりオシャレなどにはあまり興味がないですか?」
「そうだね」
ブルームの姿なら、オシャレすればもっと映えるかもしれない。
顔はいいからな。
ただ、どうにも自分の体とは思えずそういったことを考える気にならなかった。
「それでは、せっかくですから私の方で選んでみましょうか!」
別にいい。
そう答えようとしたが、フレンの目があまりにキラキラしていたので否定しづらかった。
俺、フレンの押しに弱過ぎである。
「分かった」
露店の方へと2人で近づく。
女性客の視線が一瞬俺たちの方へと集まった。
フッ、フレンは美人さんだからな。街中で視線を集めてしまうのも致し方ないことだろう。
「ブルームさんはあれだけ動き回って髪が邪魔にならないのですか?」
「別に」
「死神の眼」がある限り俺の視界は常に良好である。
ブルームの髪は背中に軽くかかる程度には伸びている。
前髪も目に軽くかかっている。
特にこだわりはないが、なんとなく原作の長さのままにキープしていた結果だ。
「そうですか? ……けれど、髪飾りの1つくらいあっても良いかと思うのですが……どうでしょう?」
「……考えたことなかった」
そう答えると、フレンは少しだけ悲しそうな顔をした。
けれどすぐにいつもの顔に戻る。
「それでは、試しに気に入るものを探してみましょう!」
商品棚に飾られる髪飾りを眺める。正直、あまり違いが分からない。
「これはどうでしょう?」
そう言ってフレンが差し出したものをいくつか付けてみる。
その様子を見たフレンはムムム、と言って再び選定に戻る。
何度か繰り返した後、フレンは自信ありげに1つの髪飾りを差し出した。
「ではこれ……これはどうでしょう!」
黒い花を象った髪飾りだった。
フレンは俺の頭にそれを付けながら上機嫌に話す。
「やはりブルームさんの銀髪には暗い色の方が似合うと思います。それにイメージとしてもピッタリかと」
フレンに促されて店内に備えつけられた鏡を見る。
華奢な少女が無表情にこちらを見返していた。
白髪の中にある一点の黒に不思議と目が惹きつけられる。
「……悪くない」
半ば無意識にそう呟くと、フレンは嬉しそうに笑った。
「そうですよね! この調子で服も見ましょう!」
えっ、髪飾りで終わりじゃないのか!?
◇
やってきたのは女性用の衣服が売られている一般的な服飾店だ。
「フレンもこういう庶民の店に普通に入れるようになったね」
「も、もう! いつの話をしているのですか。初めて会った時の私ではないのですから!」
貴族令嬢だった頃のフレンは屋敷まで商人の方が来ていたらしい。
出会った頃に買い物の仕方を彼女に教えたのは懐かしい記憶だ。
売り場を一通り見て回った。
様々な候補たちを吟味した結果、最終的に俺は白色のワンピースを着せられていた。
「ほら、見てください」
再び鏡を見せられる。
白色のワンピースを着たブルームは、深窓のお嬢様のようにも見えた。
ワンピースからはみ出した手足はすらりと長い。
ワンピースの上からは薄手のカーディガンを羽織る。
こうしてふんわりとした服を着ると、ブルームのやや華奢すぎる体型が目立たなくなるようだ。
薄っすらと化粧を施した顔はいつもより血色がよく見える。
いつもは鏡を見ると不機嫌そうな顔をしているが、今日はどこか機嫌が良さそうに見えた。
「……かわいい」
思わずそんな声が出てしまう。
今まで興味のなかったことだったが、案外楽しいかもしれない。
満足気なフレンの顔を鏡越しに見ながら、俺はそんなことを考えていた。




