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第11話 『時戻し』

 「ブルームちゃん。また力の扱いについて聞いてもいいかな?」

 「分かった」


 若干の怯えを見せながらも、ローラは俺に話しかけてきた。

 彼女は未だにブルームの醸し出す雰囲気に慣れないらしい。

 

 先日の「ハンター」との戦闘の際に、ローラは自分の無力を痛感したらしい。

 最近はこうして俺に教えを乞うことが多い。

 

 と言っても、俺の力は殺すくらいしかできないから、治す力を持つ彼女にアドバイスするのは不適任だと思うのだが……。


 「今日は魔法の使い方を聞きたくて」

 「うん」


 ローラが今扱える力は大きく分けて2つだ。

 傷を治療する治癒魔法。自分や仲間を守る障壁魔法。


 攻撃能力は持たないが、ローラのソウルライトはこの2つの魔法を大きく強化している。

 つい最近まで魔法を使えなかったローラだが、治癒と防壁については教会に勤めている聖職者をも上回る実力を持つ。


 「ちょっと前にね、ギルが聖職者の教本をどこかから持って来てくれたんだけど……」


 多分、適当にくすねてきたんだろうな。

 ギルは自分の嫌いな教会などが相手だと一切躊躇いなく犯罪行為を行う。

 彼は王権だとか教会だとか、『正しい』ものが大嫌いだ。


 「私とはやり方が全然違うみたいで。やっぱり、ソウルライトで使えるようになった魔法って他の人とは感覚とか違うのかな?」

 「うん、違う」


 そもそも彼女の本質は「治癒」ではない。

 メインヒロインたる彼女の力はそんな単純で安っぽいものではない。

 

「……」


 少し、考える。

 リオグレンに聞かれた時にはぼかしたけど、ローラについてはソウルライトについてハッキリ伝えた方がいいか?

 彼の場合は今後の展開に影響する可能性があるから言わないでおいたが……。

 

 己のソウルライトの理解を深めると、力はより引き出しやすくなる。

 

 ただしそれは、自分が納得できて初めて力を発揮するもの。

 例えるなら、計算問題の答えを教えてもらう事と自分で解けるようになるのは別物であることに近いだろう。

 

 「ローラ、あなたのソウルライトの正体について、私の推測を伝えてもいい?」

 「え? うん、いいけど……」


 困惑した様子のローラに、俺は原作知識を説明する。


 「ローラの治癒魔法は一般のものとは治す過程が全く違う。まず、通常のモノは本人の自己再生力を強化して傷の治癒を行っている」

「うん、教本にもそう書いてあったね」


 勉強熱心だな。

 俺は好きな漫画を読んでいるうちに覚えただけなので、ローラはすごい。

 

 俺は内心推しを誇らしく思いながら話を続ける。

 

 「対して、ローラの治癒魔法は時間が戻ったみたいに傷があった場所が元通りになっている――であれば、ローラのソウルライトは『時戻し』であると推測がつく」

「えっ!? 『時戻し』って、そんなこと可能なの?」

「ローラの魂の輝きは一級品。できても不思議じゃない」


 なにせソウルライト蒐集家であるラスボスが執着するほどだ。

 ローラのソウルライトは作中でも最強クラスだ。

 今はまだその真価を発揮できていないに過ぎない。


 「魂の輝きって……ブルームちゃんにはそれが分かるの?」

 「……」


 いや、全然分からない……。

 原作知識について話す時に便利だから言ってるだけ。ほぼ嘘だ。

 うっ、ローラの純粋な目が痛い。

 

「……死神は魂を狩るものだよ」

 

 それらしいことを言って俺は適当に誤魔化す。ざ、罪悪感が……。


 「話を戻す。仮定として、ローラのソウルライトは『時戻し』であるとする。治癒は部分的な時間の巻き戻し。障壁はおそらく時間の断絶を生成して攻撃を防いでいる」

 「時間の……断絶……?」

 

 分かったような分かっていないような表情をするローラ。無理もない。

 説明している俺もあまりイメージは湧かない。けれど、ローラがそれをできることは知っている。

 

 「そういうイメージで魔法を発動してみて」

「分かった、やってみる!」


 全部飲み込めてなくてもひとまず実践に移せる素直さはローラのいいところだな。



「『聖なる壁よ、我らを護りたまえ』」


 両手を前に突き出したローラの前に、半透明の障壁が展開された。


 「あれ、なんか前までよりうまくいった気がする!」

 

 嬉しそうに言うローラに、俺は小さく頷いた。


 「耐久テストする」

 

 俺は「死神の大鎌」を取り出すと、勢い良く障壁に叩きつけた。

 大鎌の先端が半透明の障壁にぶつかると、大理石にでもぶつかったみたいに弾き返された。


 「うわあっ! ブルームちゃん急に何するの!?」

 「だから、耐久テスト」

 「耐久できなかったらどうするつもりだったの!?」

 「寸止め」

 「怖いよ!」

 

 まあ、この鎌が通ることはないと確信していた。

 「死神の大鎌」は命を断ち切るモノだ。

 生身の体に命中すれば最大の効果を発揮するが、盾などの無機物に対しては無力。

 

 大鎌がこの障壁を破壊できる道理はない。

 

「今の障壁をキチンと出せれば誰も正面から突破できない。自信を持って」

「へ? あ、ありがとう」

 

 意外そうな顔をして礼を言うローラ。

 原作においても彼女の全力の障壁が正面から破られたことは一度たりともない。

 

 ローラには少しくらい自信を持って欲しいものだ。





 大陸有数の大国、聖王国。

 その中心には、ヴァンガード教の最高機関である大聖堂が存在する。


 大聖堂の地下には、一般に知られていない秘密の部屋があった。

 外の光が遮断されたそこは、昼夜問わず大量の蠟燭が灯りを灯している。

 

 

 ここに入れるのは、最高権力者である大司教だけだ。

 

「――お父様、もう少しじゃ」


 この世のものとは思えないほどに美しい女が言葉を紡ぐ。

 20代にも見える美貌だが、その口調はひどく古めかしい。

 

 彼女の視線の先には、豪華な装飾を施された棺桶があった。棺桶は他にも複数存在していて、部屋の奥に向かって等間隔で配置されている。


 「血の貯蔵量は目標の8割近く。魔法陣の準備も完璧じゃ」


 大司教ミレディは吸血鬼だ。

 300年前の大戦争で絶滅したはずの吸血鬼、その最後の生き残り。

 人間社会の闇に忍び、生き血を取り続けた彼女は300年以上生き長らえていた。

 

 彼女の目標は、同族の復活だ。

 

 「それに、あの『時戻し』のソウルライトを手に入ればもはや血の収集も魔法陣も不要となる」


 ミレディのソウルライトは『奪取』。

 血を吸い尽くし殺した相手のソウルライトを一時的に自らのモノとして扱える。

 

 『時戻し』を殺して力を奪えば、死んだ吸血鬼たちの時間を戻し、復活させられる。

 ソウルライトの扱いについて300年間研究を続けたミレディなら成し遂げるだろう。


 『時戻し』のソウルライトについて知ったのは、持ち主であるローラが聖王国から脱出した後だった。

 ミレディは聖王国内部で行使された能力を検知する大規模な魔道具を地下室内に所持している。

 

 300年間一度たりとも存在しなかった『時戻し』のソウルライト。

 その反応を後になって確認したミレディは後悔した。

 

 聖王国内であれば、夜の間にミレディ自ら少女を捕えに行ってもよかった。

 陽光の下でさえ無ければ、ミレディは大陸中の誰にも負けるつもりはなかった。


 しかし国外となれば、手足である教会を頼る他ないだろう。

 

 

 ミレディが考えるべきは『時戻し』のソウルライト、すなわちローラの捕獲作戦だ。


 先日黒牧師を派遣した時には失敗に終わった。

 満を持して黒牧師を送り出しただけに、ミレディの落胆は大きかった。


 『時戻し』の確保はローラにとって最も優先するべき課題だ。

 次は、今動ける中で最も強い黒牧師を送るべきだろう。


 ミレディは黒牧師のリストをめくり、1人のエージェントに目星をつけた。


 「ああ、あいつがよかろう」


 黒牧師第六位階、ウォール。

 それは空間を断絶する無敵の障壁の使い手だった。


 

「もう少しじゃ……もう少しでワシら吸血鬼の時代が再び訪れる。生き血を貪り、奴隷を従え、大陸の覇者として君臨する、吸血鬼の時代が!」

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