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追放された宮廷錬金術師、辺境で開いたカフェがエリクサー飲み放題で大繁盛  作者: 無響室の告白


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第5話:腐敗の森と究極の薬味

ヒドラ騒動が一段落し、再び平和な(とアルヴィスが信じている)日常が戻ってきたカフェ『賢者の休息』


しかし、閉店後の店内で、騎士団長セラフィナは深刻な面持ちで地図を広げていた。


「アルヴィス殿、感謝はしています。貴殿のおかげでベルンは救われた。……ですが、事態はまだ収束していません」


彼女が指差したのは、ベルンのさらに北、地図上で黒く塗りつぶされた地域だった。


「今回のスタンピードの発生源はここ、『北の黒森』です。


観測班の報告によると、森から溢れ出る『腐敗の瘴気』が急速に拡大しており、それが魔物たちを狂わせ、外へと追いやっているのです」


セラフィナの声には焦燥が滲んでいた。


このまま瘴気が広がれば、いずれこのベルンの街も死の大地に飲み込まれる。


それは国家規模の危機であった。


「ふむ……腐敗、ですか」


アルヴィスは顎に手を当て、真剣な眼差しで地図を覗き込む。


セラフィナは期待した。


ついにこの規格外の錬金術師も、事の重大さを理解したのだと。


「それはマズいですね。非常にマズい」


「ええ、そうです! このままでは生態系が……」


「そんな湿っぽい空気が流れてきたら、軒先に干している『自家製ドライハム』にカビが生えてしまうじゃないですか! 風味も落ちるし、衛生的に最悪です!」


「……は?」


「すぐに行きましょうセラフィナさん! 換気扇のフィルター掃除より急を要します。あの森の空気を『洗浄』しに行きますよ!」


セラフィナが何かを言い返すよりも早く、アルヴィスは彼女の腕を引いて店を飛び出した。


数時間後。


二人は『北の黒森』の入り口に立っていた。


そこは、この世の地獄と呼ぶにふさわしい場所だった。


ねじれた木々は枯れ果てて悲鳴のような音を立て、地面は紫色の泥に覆われている。


空気中には致死性の毒素を含んだ濃霧が立ち込め、呼吸をするだけで肺が焼け爛れるような死の世界。


「くっ……なんて濃い瘴気だ。私の加護をもってしても、長くはいられない……!」


セラフィナが口元を覆い、脂汗を流す。


Sランク級の冒険者ですら足を踏み入れない禁足地。


世界の終わりを予感させる光景に、彼女は戦慄した。


だが、隣に立つ青年は違った。


「おや、少し埃っぽいですね」


アルヴィスは鞄からガスマスクのような形状の道具『大賢者の防毒マスク』を取り出し、手際よく装着した。


「セラフィナさんもどうぞ。これ、花粉症対策に作ったんですけど、高性能すぎて火山ガスの中でも深呼吸できるんですよ」


「……貴殿の『花粉症』の定義はどうなっているのですか」


マスクを渡されたセラフィナは、恐る恐る呼吸をする。


驚くべきことに、あれほど濃密だった死の気配が完全に遮断され、高原のような清浄な空気が肺を満たした。


「さて、空気の淀みも気になりますが……おや?」


アルヴィスが枯れ木の根元に駆け寄る。


そこには、人間の顔のような奇怪な根を持ち、不気味な叫び声を上げる植物が生えていた。


「ギィィィィヤァァァァァ!!」


「出たな、魔界植物カース・マンドラゴラ……! 聞くと発狂するという伝説の!」


セラフィナが剣に手をかけた瞬間、アルヴィスは無造作にそれを引き抜いた。


「素晴らしい! これ、探していたんですよ! 『激辛大根』の亜種ですよね? すり下ろしてポン酢に合わせると、極上の薬味になるんです。


叫び声がうるさいのが玉に瑕ですが、鮮度は抜群です!」


「違います! それは呪いの触媒です!!」


「え? いやだなぁ、ただの野菜ですよ。ほら、あっちにも群生地が。今日のディナーの付け合わせはこれで決まりですね」


死の森を「家庭菜園」か何かと勘違いしているアルヴィスは、陽気に鼻歌を歌いながら、人類にとっての脅威を次々と収穫カゴへと放り込んでいくのだった。



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【場所】

- 北の黒森: ベルンの北に位置する禁足地。致死性の瘴気が立ち込め、植物は枯れ果てている。今回のスタンピードの発生源。


【アイテム・用語】

- 腐敗の瘴気: 北の黒森から発生している毒性の霧。生態系を狂わせる元凶だが、アルヴィスにとってはハムをダメにする悪臭でしかない。


- 自家製ドライハム: アルヴィスが店の軒先で熟成させているハム。彼の行動原理の源。


- 大賢者の防毒マスク: アルヴィスが花粉症対策で作ったマスク。火山ガスや致死性の瘴気すら完全に無効化し、清浄な空気に変換する。


- カース・マンドラゴラ: 悲鳴を聞いた者を死に至らしめる呪いの魔植物。アルヴィスには『激辛大根の亜種』と認識されており、薬味として収穫された。

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