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追放された宮廷錬金術師、辺境で開いたカフェがエリクサー飲み放題で大繁盛  作者: 無響室の告白


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第2話:営業妨害はお断りです

辺境都市ベルンに位置する錬金カフェ『賢者の休息』は、今日も戦場のような忙しさに包まれていた。


「店長ーっ! Cランチの『ドラゴン肉のほろほろ煮込み』、あと三食で切れちゃいます! お客さんが『これ食ったら視力が回復した』って泣いて喜んでて、追加注文が止まりません!」


厨房とホールを分けるカウンター越しに、リリアが悲鳴に近い声を張り上げる。


彼女は常人なら残像が見えるほどの速度でテーブルを回っていたが、それでも客足の勢いには追いついていない。


「あちゃあ……やっぱり昨日の仕込みじゃ足りませんでしたか。あれ、下処理に使う『聖水』の配分を間違えて、ただの高級肉になっちゃった失敗作なんですけどね」


厨房で巨大な寸胴鍋をかき混ぜながら、アルヴィスは困ったように眉を下げた。


彼にとっての『失敗』とは、本来意図した錬金術的効果(例えば、飲むだけで即座に断裂した四肢が再生するなど)が発揮されず、単に『美味しくて滋養強壮にいいだけ』に留まったものを指す。


「まあ、在庫処分がてら安く出しているものですし、売り切れなら仕方ありません。代わりに『世界樹の葉の天ぷら』をサービスしておいてください」


「りょーかいです! ……って、店長!?」


その時だった。


店の外、都市の入り口付近から、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。


それはただ事ではない、緊急事態を告げる警報だ。


店内の空気が一瞬で凍りつく。


カウンター席で優雅にコーヒーを啜っていた老剣士、ガランドが鋭い眼光で扉の方角を睨みつけた。


「……おい坊主。こいつは不味いぞ」


「ガランドさん? どうしました、コーヒーの豆が古かったですか?」


「違うわ! この地響きと殺気……『スタンピード』じゃ! 魔物の大群がこの街に向かってきとる!」


その言葉を裏付けるように、顔色を失った衛兵が店内に駆け込んできた。


「ひ、避難してくれ! 北の森から『ヴェノムヒドラ』率いる魔物の群れが雪崩れ込んでくる! 街の防壁じゃ持ちこたえられん!」


客として来ていた冒険者たちがざわめき、パニックになりかける。


ヴェノムヒドラ。


猛毒のブレスを吐き、首を切り落としても再生する災害級の魔物だ。


だが、アルヴィスの反応は彼らの予想とはまったく違うものだった。


「……いま、北の森からと言いましたか?」


アルヴィスはお玉を持ったまま、ぴたりと動きを止めた。


その顔から、温和な笑みが消え失せる。


「北の街道は、明日の朝に届く予定の『フレッシュミルク』の輸送ルートです。


最高級のカフェラテを作るためには、朝搾りのミルクが不可欠なんですが」


「ぼ、坊主? 今はミルクの心配をしてる場合じゃ……」


「ガランドさん。これは由々しき事態です」


アルヴィスは真剣そのものの表情で、愛用の『ミスリル製フライパン』を腰に差した。


「ミルクが届かなければ、明日のランチセットにカフェラテが出せない。つまり、顧客満足度が下がる。それはカフェ経営者として、万死に値する失態です」


彼はエプロンの紐を締め直し、厨房から出てくる。


その瞳には、かつて王宮で恐れられた天才錬金術師としての冷徹な光――というよりは、店を守ろうとする狂気的な使命感が宿っていた。


「リリア、店を頼みます。少しばかり、道路の『掃除』をしてきますので」


「えっ? 掃除って……店長、そのフライパンで何する気ですか!?」


「ただの害虫駆除ですよ。すぐに戻ります」


アルヴィスにとって、カフェの営業を妨害する者はすべて排除すべき『汚れ』に過ぎない。


生き残るため、そして何より明日のカフェラテのために。


世間知らずの天才錬金術師は、災害級の魔物を『食材のついで』に処理することを決意し、店の扉を開け放った。



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【登場人物】

- 衛兵: 都市ベルンの警備兵。スタンピードの急報を知らせに来た。


- ヴェノムヒドラ: 北の森から迫る災害級の魔物。スタンピードの主。


【場所】

- 北の街道: 都市ベルンへ続く主要な交易路。アルヴィスにとっては重要なミルクの搬入ルート。


【アイテム・用語】

- ミスリル製フライパン: アルヴィスが愛用する調理器具。熱伝導率が異常に高く、打撃武器としても一級品。


- ドラゴン肉のほろほろ煮込み: 本日のランチメニュー。素材はワイバーンだが、アルヴィスの錬金術的下処理により、食べるだけで視力回復等の効果がある。


- スタンピード: 魔物の大移動。通常なら都市一つが壊滅する危機。

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