2020年8月16日 気づいてしまった
日記のはじめはこうだった。
「2020年8月9日 日記を書いてみようと思う。」
・・・・・・
2020年8月9日、日記を書いてみようと思う。
今日、ショッピングモールで日記帳を見かけたとき、なぜか書いてみたいと思った。
なんであんなにも気になったのか、今でもわからない。
「おーい、拓人?いるか?」
兄の呼びかけがドア越しに聞こえた。
「うん!いるよ!」
そう返すと、入って良いかと聞かれたので良いと返す。
ドアがあき、兄が姿を見せる。
「ご飯できたって」
兄の控えめな笑顔が、僕には眩しく感じる。
「ん?どうかした?」
「ううん、なんでもない」
兄は、とても陽という感じではない。
だがとても自由人で、子供っぽいとこがいくつもある。
ただ、たまに見せる控えめな笑顔はとても大人っぽい。
今日も早速見れて嬉しいな。
「「「「いただきます」」」」
食卓についた僕たちは、一斉に手を合わせる。
今日は、肉じゃがだ。
1つ口の中に放り込めば、ほろほろとほどけるような、崩れていくような、そんな具合にじゃがいもがなくなっていく。
しかし、なくなっていくじゃがいもとは反対に、香ばしさだけは口の中にとどまり、後味を独占した。
「美味しい」
そう言った僕を見て、家族のみんなは微笑む。
なんだか恥ずかしい。
ふと気になっていたことを思い出した僕は、和ますように切り出した。
「あ、兄ちゃん。高校生活どう?」
「急にどうした?」
「いや〜兄ちゃんがどんな感じで高校生活送ってるのかなぁ〜って」
兄はあまり学校の話をしない。
したくないわけではないらしいけど、こっちから聞かない限り、向こうから話してくれることはない。
そして僕は、兄にまともな友達ができているのか、しっかりコミュニケーションは取れているのか、孤立していないかとても気になる。
時々、兄から親かと突っ込まれるがそんなの気にしている場合ではない。
「まぁ楽しいよ?」
当たり障りのない答えが返ってきた…
まぁ勘弁してやろう。
「そっちはどうなんだよ?」
お、今度はこっちが攻められるターンか。
「新しい友達とかできたし、楽しいよ」
僕も人のことを言えないかもしれない。
「へぇ、友達か〜大事にしなよ」
「もちろん」
いつもと変わらない会話だけど、この会話が好きだ。
「うまくやってるなら良かった。」
父さんがニコニコしている。
「そうね」
母さんも同じだ。
それからは、いつも通りなにも変わらない。
楽しく話して、風呂に入って、宿題をしたり、ゲームをしたり。
おやすみなんて言葉を、一人になった部屋の中で呟いて、1日を終える。
何も変わらない1日だ。
ただ1つ、少しの違和感を抱いていたことは、見ないふりをして。
そうして朝が来る。
「「「「おはよう」」」」
リビングで声をかけ合う。
さぁ、今日も1日の始まりだ。
…
そうして日々が過ぎていく。
そして、日記を書き始めて1週間、今日は8月16日。
変わらないと思っていた日常が変わった日だ。
「2020年8月16日 気づいてしまった」




