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2020年8月9日「日記を書いてみようと思う」

今日も教室は騒がしい。

何もかもサボりたくなる。

人付き合いも、嫌いな勉強も全部しなきゃいけない、とても辛い部屋。

でも、どれだけ窮屈で、退屈で疲れていても、なぜか知らぬうちに「やらない」なんて選択肢は無かった。

洗脳を施されたかのように、辛くめんどくさいこともそれが普通だと言わんばかりに、違和感がない。

「好きな人を侮辱しないで!」

「同性愛とかマジありえないよねw」

「「「それなー」」」

なんて言葉が飛び交う。

同性愛、みんなは知っているかな?

男同士とか女同士で付き合ったりするらしい。

それがどうやらみんなにとっては気持ち悪いそうで。

よくわからない、なぜそう思うのか、私は正直どっちでもいいと思う。というか興味がない。

それでも、周りと違う意見を出すとめんどくさいから。

「それな」

なんて言う。

「あ〜あ泣いちゃった。てか恥ずかしくないの?高校生にもなって泣くなんて」

グループの1人が言う。

真希美帆、リーダー格とでも言うのだろうか?

そんな彼女に目をつけられるととことんめんどくさい。

いじめの対象になったりとかね。

目の前にいる男子がまさにそれ。

彼は中学の頃の同級生と付き合っているらしい。

それだけなら彼女に目をつけられることはないだろう、しかし、それだけではなかった。

同性だった。

何が問題なのかはわからないが、彼女はそれを面白がっているらしい。

目の前の男子は泣き出してしまい、

そのまま彼はどこかへ行ってしまった。

頭の中に男子の言葉が残っている。

『好きな人を侮辱しないで!』

はあ、めんどくさい。

なんでいつもこんなことばかりなんだろう?

私はただ、何事もなく高校生生活を終えたいだけなのに…。

………

「ただいま」

おかえりなさいと返してくれる両親よりも気になるのは今日のご飯。

カレーだ。

「今日カレー?やった」

少し嬉しい、今日あっためんどくさいことが少しどうでもよくなった。

ふと食卓に目をやる。

すると異質なものがそこにはあった。

少し分厚目のうちでは見慣れない本だ。

日記帳だろうか?

しかし変だ、私の両親は日記をつけるような人たちではない。

そんなふうに不思議そうに見ていると、

「これ、気になるかい?」

父が尋ねてきた。

「うん…」

思わず返す。

すると、父はいつもの明るさとは対極的な神妙な面持ちで話し始める。

「この日記はね、私の親友の息子さんの日記なんだ。」

「なんでそれがうちに?」

当然気になることを聞いたのだが、

「読んでみれば分かるよ」

とだけ返された。

すると

「話しているのはいいけど、ご飯できたからお皿並べるの手伝って」

母の呼びかけがかかったので、父との話を中断し母の方へ向かう。

リビングをカレー独特の匂いで埋め尽くされる。

うん、いい匂いだ、いい感じに空腹を刺激される。

「「「いただきます」」」

3人で手を合わせたあと、皆がスプーンを手に取り食べ始める。

口に含み噛みしめる。

ピリピリと弱めの刺激が舌を襲いながらも、リビングを埋め尽くしていた匂い以上のかおりが口内に広がる。

一通り楽しんだあと、名残惜しくなりながらもゴクリとのみこみ、

「はぁ〜美味しい」

口角を上げたままため息をもらす。

すると、

「んふふ、」

母が私を見ながら微笑んだ。

「な…なに?」

なぜか恥ずかしくなりながら尋ねると。

「いやぁ〜ねぇ、あなたって本当に美味しそうに食べるものだから、見ているとつい嬉しくなっちゃうの」

やけに恥ずかしいことを言うなぁ。

「ど…どうしたの?いつもはそんなこと…」

「まぁまぁ、さぁわたしもいただくわね」

と言いながら、母も美味しそうに食べる。

そんな光景を見て父も笑う。

皆が食べ終わり、

「「ごちそうさまでした」」

「お粗末様でした」

と言い、父と私で皿洗いをし始める。

「いつも悪いわね」

母はそう言うが、私たちは進んでやっている。

父が、

「疲れているはずなのに、料理を毎日作ってくれているんだから片づけぐらいはさせてよ」

と返す。

それに私も頷く。

ガチャガチャと音を立てながら、私は父に聞いた。

「読んでみれば分かるよって言ってたけど、読んでもいいものなの?だって私からすれば他人の日記だし…」

父は、

「いいんだよ、だって、もう読むのは私ぐらいだからね」

なぜ?そう聞こうとしたけど、悲しそうな父の顔を見て、聞くのを踏みとどまる。

片づけが終わり、父から許可を得て日記を手に持ち、部屋に入ろうとする。

「あなたは好きに生きていいからね」

突然母が私に向かって言い出した。

流石にびっくりした私は

「ほんとにどうしたの?体調悪い?」

と聞くとおかしそうに笑う。

「いえ、ちゃんと伝えておこうとと思ってね」

今日の母は様子がおかしい。

いや、父もおかしい。

気になることだらけだったが、そのまま部屋に入った。

「かという私もおかしいか。

こんな他人の日記を読もうだなんて…

なんでこんなに気になるんだろう?」

自分を不思議に思いながらも、表紙をめくる。

すると、一番最初にこう書かれていた。

「2020年8月9日 日記を書いてみようと思う」

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