第一話 異世界言語なんてわかるわけないだろ。
「ここは...?」
さっきまでいた白い部屋。その面影が全くないような森の中に俺は寝そべっていた。
起き上がってみるとただの森...ではないようにも見える。見たこともないような鳥や、聞いたこともない獣の鳴き声。明らかに異質だ。
転移前には時々ファンタジー小説を読んだりはしていたが、いざ自分が何にもなしに異世界に放り出されると困ってしまう。やっぱり人を探した方がいいのだろうか。
でもどうやって...?冷静に考えてこの世界でも日本語は通じるのだろうか?
そもそも、今いる位置から森が開けていそうなところが全く見えない。一日目から力尽きたら笑い話にもならないよ。
「とりあえず歩いてみよう。」
服は死んだときのままのようだ。ご丁寧に寝巻のままで、靴を履きながら寝るわけがないので裸足だ。
でも、歩くしかない。ここで寝ていたら力尽きる。一度死んだといってもやはり死は怖い。
だから歩こうなどと思って歩き始めてみた。
...ウキウキで歩いていたら池に落ちた。全然足元を見ていなかった。しかもただの池ならよかったのだがなぜか粘着質だ。べたべたしている。
「なんだよべたべたしてる水って!」
そんな文句を言っていたらなんか木の裏からなにかが顔を出してきた。背格好や大まかな外見は人間っぽいが、肌が緑だし耳がとんがっている。俺が知らないだけでグリーンエルフとかいるのだろうか。そんなことを考えているとそいつが話しかけてきた。
...なに言ってるか全然わからない。普通に考えて言語がわからないのは転移先として問題では?
本当に勘弁してほしいものだ。俺が首をかしげているとそいつが近づいてきた。右手には随分と原始的な斧。もしかして...ゴブリン?にしては美形すぎる。男グリーンエルフかと思っていた。グリーンエルフなんていないと思うけど。そんなしょうもない考えが頭をよぎっているうちにゴブリン?は斧を持つ右手を振り上げている。
「あ、死んだ。」
その時、ゴブリンの後ろに人影を見た。直後、ゴブリンの肩がたたかれ、ゴブリンは斧をおろし後ろを見る。
何か話し込んでいる。人影は20代半ばくらいの男。俺と同い年くらいだろうか。彼はゴブリンじゃなさそうだ。
なぜか口論が熱くなっていっている。徐々に沈みゆく俺を放置で。口論で決着がつかなかったのか、男の方がしびれを切らして美しい右フックをゴブリンの顔面にぶち込んだ。
ゴブリンはすぐ近くの木にぶつかり動かなくなった。男は俺に手を差し伸べてきた。
もちろん掴んださ。このまま沈んだら死んでしまうことなど目に見えているどころか、現在進行形で沈んでいるのだから。
もう下半身は全て埋まっている。
男に引き上げられ、俺はやっと、文字通り地に足をつけた。
ゴブリンと言い合いしていたときから薄々分かっていたが、やはりこの世界に日本語はないようだ。男の言っていることが全く分からない。
一瞬、このまま奴隷として売り飛ばされたりするのかとも思ったが、どちらにせよ死にそうなので男についていくことにした。