カースト外
発砲音の直後、教室内が凍りついたように静まり返った。
何が起こったのか理解できないまま、智樹は冷気でかすむ視界のなかで、自分の体から冷凍攻撃の氷がパリパリと砕けていくのを感じた。そして、その冷気の壁の向こうに立っていたのは——
黒いスーツに身を包んだ複数の男たちだった。
無機質なヘッドセットと銀のバッジ。左肩には、「国家能力管理庁(NACA)」と刻まれた刺繍。
「ターゲット制圧確認。対象A、拘束完了。」
淡々とした無線の音が響く。
「えっ……う、嘘でしょ……?」
冷凍攻撃を放っていた女子生徒は、床に押し倒され、腕を背後で拘束されていた。光線を放っていた手の甲からは、小さな黒い装置が摘出され、NACAの職員が即座にケースに収納する。
「Aランク未登録能力者の暴走を確認、緊急制圧しました。関係者は静かに——」
騒然とする教室。生徒たちは目を丸くして立ち尽くし、誰一人声を出せない。
——智樹は、氷が解けきった手で、自分の胸を押さえていた。
まだ心臓は早鐘のように鳴っている。今のは、確かに「死の一歩手前」だった。
「……助かったのか……?」
すぐそばで、準が静かに息を吐いた。
「ほらな。言っただろ、ああいう攻撃にはパターンがあるって」
「……お前……」
「いや、俺じゃない。俺は通報してねぇ」
そう言って、準はポケットからスマホを取り出してみせた。
画面はロックされたままで、通報履歴も起動されていない。
「じゃあ、誰が……?」
その瞬間、再び無線の音。
「対象B、観測開始。Aクラス潜在能力の兆候あり。観測ユニット、対象者:向井智樹」
——名前が、呼ばれた。
智樹の全身が震えた。冷気のせいではない、明らかな恐怖だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……俺は、何もしてない……!」
「能力発現の有無にかかわらず、カースト外カード所持は国家違反となる可能性があります。事情聴取に協力を——」
職員の一人が、智樹に手を伸ばす。
そのとき、再びパンッ!と発砲音のような音が響いた。
だが今度は、銃声ではなかった。
空間が、ねじれた。
何かが「破れた」ような感覚。空間に黒い裂け目が浮かび、その中から、ひとりの女性が現れた。
長い黒髪、黒い戦闘服のような装い。背中には、古びた**「カード」**が十数枚、帯のように並んでいる。
「……そこまでにしてもらえる?」
その声には、凄みと優しさが混じっていた。
「な……誰だ?」
NACAの職員たちが構え直す。
女性は、智樹に目を向けた。
「久しぶりね。あなたが、私の孫なのね」
——心臓が止まりそうだった。
「……おばあ……?」
違う。
確かに顔は似ているが、智樹の知る祖母ではない。
彼女は……若い。二十代後半くらいに見える。
「時間を越えてきたの。あなたがこの時代で殺されないように」
その言葉に、智樹は言葉を失った。
「私たち“カースト外れ”の能力者は、もう逃げてばかりじゃダメなの。世界が本当に壊れてしまう前に、“真実”を伝えなきゃ」
準が、動揺して一歩後ずさる。
「時間を……越えた……?」
女性は、智樹の手を取り、彼の「カード」に触れた。
「これは、世界を変える鍵。あなたには、それを選ぶ権利がある。従うか、戦うか」
ガラスのように透明な画面が宙に浮かび、そこにはこう表示されていた:
《選択》
◻ 国家に従い、能力を登録し、管理下に入る。
◻ 真実を知り、未来の崩壊を止めるために戦う。
智樹は、震える指で、どちらかを選ぼうとしていた——。