拡散
なぜあんなに彼は優秀なのだろう。よく智樹自身の行動を観察しているのだろうか、それとももう「カード」をもっていることをわかっていて、探りを入れようとしているのか、不安しかなかった。
もしも智樹を危険人物と認識するのだとしたら、就職先へと決まっている国立研究所に密告するかもしれなかった。そんなことをされてしまえば、智樹は能力を失ってしまう。
祖母の大切な能力「カード」誰かに知られるわけにはいかない。
教室に入ると、心なしかクラスメイトの目が突き刺さった。
「ねえ、向井?これってあんたの事だよね。」
媚びを売るような眼で女子生徒が見てきた。いままで、ノーマルである智樹にはしたことのないような視線だった。
「『未来が見えるカード』持ってんだよねー。SNSで見つけたんだけど、これってホント?」
指先には、はっきりと『向井智樹は予知カードをもっている?』といったような記事が拡散されていた。しかも、写真つきで。
どこで、そんな情報がー
誰にも教えていないはずなのに、どうして。
智樹は、動悸が止まらなかった。呼吸もうまくできない様子だ。
「知らない、俺じゃない。他の同性同名のやつじゃないのか?」
紛れもない自分の写真であるのに見苦しい言い訳しか彼はできない。
相手はこう言った。
「あんたみたいなノーマルがこんな「カード」を持っていても宝の持ち腐れなのよ。金なら、パパに用意してもらっていくらでもあるんだから渡してくれない?」
早く渡せと言わんばかりの表情が恐ろしいとさえ感じた。誰でもいい助けて。智樹はそう願った。
ガラガラと教室が開く音が聞こえた。
「なんだ、なんだ。朝から物騒だな。揉めてんのか?」
なぜ、「カード」のことが知られているのか、それは準が拡散したからである-。
智樹は非常に短絡的に考えた。
「お前が広めたんだろう?「カード」のことを。許さないからな。」
智樹は準に詰め寄った。女子生徒に声が聞こえないよう、低くドスを聞かせた。
「は?カード?なんのことだよ。」
智樹がしらばっくれるなよと感じたその時。
「なにごちゃごちゃしてるのよ。「カード」を渡さないならこっちも考えがあるから。」
そういうと女子生徒の手から青い光線のようなものが放たれた。