祖母とカード
彼は、生まれつきこの能力を持っていたわけではない、むしろ、ごく最近のことだ。「カード」を手にしたきっかけは、智樹の祖母がこの「カード」をもっていたからだ。智樹は祖母のことをとても慕っていた。彼女は職業が、占い師という風変わりな事をしていて、親せきからはあまりよく思われていなかった。しかし、周りになんと言われようが芯をもって行動している姿を見て彼は尊敬するようになった。しかし、どんな人でも年齢には勝てない。祖母も病床に伏せるようになってしまい、日に日に弱っていった。そんなときだった。智樹は、彼女に一人で来てほしいと病院から呼び出された。
「智樹、今から出すものを受け取ってくれる?代金なんていらないわよ。かわいい孫からお金を取る、おばあがどこにいるの。」
そういうと、ボロボロのなにかをとりだした。古びた「カード」だ。
「受け取れないよ、こんな大切なもの。」
智樹は、祖母が「カード」をもっていたことに対して驚きを隠せなかったが、納得はした。彼女の占いは、実によく当たったからである。天気や、だれを好きになるのか、などたくさんのことを教えてくれた。しかし、どんなテストが出るのかなどという事は、智樹のためにならないと言い突っぱねていたが。
「もうすぐ死ぬ、私みたいな老人が持っていたって宝の持ち腐れなの。おばあの最後のお願いを聞いてくれる?」
潤んだ目で見つめられると、智樹はそれに応えるほかなかった。
「わかった。この「カード」受け継ぐよ。」
彼は、「カード」を受けとった。それが、智樹と祖母の最期の会話だった。
祖母が死んで智樹は涙が枯れるくらい泣いた。そうして、母から彼女の手紙を受け取った。そこには祖母が想像を絶する人生を歩んでいたことがわかったのだ。
日本カースト法が出来た時、彼女はすでに占い師として働いていた。いかんせん、一般の人とは、違った仕事をしていたので、政府から目を付けられ祖母の能力が調べあげられた。
彼女は、未来を予知できると唱っていたため政府の監視下に置かれ、これから、3か月以内に起こる、経済に関することを予知するよう命じられた。彼らとしては、祖母を日本から排除する為の作戦に過ぎなかったのだろうが、それは失敗した。彼女は、沢山の経済の動向をぴたりとあてたのである。
はじめは、単なる偶然だと高をくくっていた役人たちも次第におそれ、結果として能力を認めざるを得なくなった。悪用しないことを条件に「カード」として、認められた。しかし、祖母の苦難はここで終わったわけではない。今度は、その能力を政府の権力争いや、国立研究所の実験台として利用されそうになった。必死に抵抗した彼女は、代わりに店の嫌がらせを受けてしまう。それで、彼女は、この「カード」の存在そのものをひた隠しにするしかなかった。いつもいつも暗い闇の中を歩いているような人生だったそうだ。それでも、智樹にこの「カード」を伝承するのは、彼に大切な人が出来た時、危険が迫っていたら守ってあげてほしいからだった。そして、この「カード」の事は家族にさえも言わないでくれと書かれていた。かわいい孫が政府や、研究所に利用されるのは嫌だから。智樹とおばあの秘密だと。
智樹は、この手紙を読み終わった瞬間不思議と涙が止まっていた。代わりに、ある種の決意のような気持ちが芽生えた。祖母のいう通り、この「カード」を持っていることが知られたら何かしらの危険に遭う可能性がある。だからこそしっかりと約束を守り自分の身を守ることが必要だと感じた。しかし理解できないこともあった。智樹は、いわゆる恋愛感情というものをあまり持ったことがなかった。人にあまり興味がないのだ。自分のことで精一杯だったのかもしれない。彼女を持っている友人を少し羨ましいと思ったことはあるが、彼らは彼女がいるという状態に満足しているだけだと思い、平静を装っていた。この年齢になってもそういった感情をもてないことにある種の焦りを感じていたのだ。
彼は、誓った。何があってもこの能力を隠すと。