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冷めぬ熱

初めてついてたブックマークの表示をみて二分ほど固まってました。

イリナはかごを背に、うつむきながら帰っていた。田畑のそばを通る道中では、農作業終わりに何組かの村人たちが話す声が聞こえてきた。


「遠目で見たけれどもあんなひょろっとしたのが本当に勇者なの? 何かの間違いじゃないかしら」

「やめとけ、見た目で判断すると痛い目を見るぞ、どんな恐ろしい力を持ってるかわからん。子供達には決して近づかないように言っておかないと。目が覚めたら何をしてくることやら」


「何歳だと思う?あの勇者」

「受け答えがしっかりしてたわりにはちっこいし、十五、ってとこか」

「俺の半分じゃねえか。まぁ、なんにせよあの子もかわいそうだよな。勇者なんかに祭り上げられた挙句、結局は負けて死ぬんだろ。また」

「今までずっとそうだもんなぁ」


 皆、今日現れた勇者についての話題だった。

 中には、勇者を村に招き入れた元凶であるイリナを、ちらちらと横眼で見てくるものもいた。


「もういや、なんで勇者が村にいるのよ。追い返せそうって話だったじゃない」

「しーっ、聞こえちゃう。――イリナが引き連れてきたんだって。」

「なんでよっ」

「だから静かにって、……でも結局長老様も止めなかったようよ。わたしは長老様の判断を信じるわ」




 突き刺さる視線に居心地の悪さを感じながらもイリナは歩き続けた。そして村の居住区の中まで戻ってきたところで、一度立ち止まり、深く息を吐く。この角を曲がれば、あの勇者のいる自分の家が見えてくる。

 

 気持ちの整理がつかないまま再び歩き出してすぐ、目にした光景に、イリナは違和感に襲われた。


――自分の家の前に、やけに人が多い。


 おかしい。普段は、ひとりで暮らすイリナを訪ねてくるものなど、作った薬を求めてくる者くらいだ。

 それも、せいぜい一人か二人。一度に何人も来ることは、ない。

 

 胸騒ぎを覚えたイリナは、その瞬間に走り出していた。その間に、斧を持った女がイリナの家に入っていくのが見えた。


「何、してるのっ!」

 苛立ちから声を荒げながら、彼女は駆け寄る。

 イリナの接近に気が付いた何人かが振り返った。その彼らがみな、まずいものを見られたかのような苦々しい表情をしていた。

 状況と来訪者たちの共通点から、彼女の中の疑念が確信に変わる。

 

 ああ、この人たちは、先ほどまでの自分と同じように、勇者に復讐をしようとしているのだ。


「やめっ――きゃっ!」

 すぐさま彼らを止めようとしたイリナは、しかしながら一人の男に抱え込まれ、口をふさがれた。必死でもがき振り払おうとするが、イリナの力は鍛えられた成人男性には遠く及ばない。

「――っ!!!」

「大人しくしてくれ、イリナ。俺たちの気持ちだってわかるだろう」

 彼女を抑えつけていた男から発せられた、恐ろしいほどに感情のない平淡な声に、ひっ、とイリナは身がすくんだ。


「あの惨劇を忘れるわけにはいかない。勇者がこの国に来たって聞いた時からずっと、俺たちはこの手でぶち殺してやりてぇと思ってたんだ。」

 イリナを捉えた男を皮切りに、周囲の者たちが次々に口を開く。


「なのに長老をはじめ年寄りたちは、安全に追い返すことを選びやがった。あんなに弱ってたのに、だ」


「でもイリナ、あなたのおかげでこうして絶好の機会を手に入れられたわ。感謝してる。今度うちで御馳走してあげるわね」


 イリナは改めて恐る恐る彼らを見た。あまり話したことのない者、何度か頼まれて薬を作った者、よくイリナを可愛がってくれた者もいた。しかし、その誰もが、瞳の奥に隠しきれない激情を宿していた。


 見知った大人たちが初めて見せる表情。しかしながらイリナはすんなりと理解できてしまった。

なぜならつい先程まで自分も同じ顔をしていたから。彼らを突き動かす殺意と哀しみが、痛いほどに分かってしまった。



 

イリナはすっかり抵抗する力を失ってしまっていた。


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