父への報告、昔の思い出
決闘に勝利した後、クロードたちに敗者側のことを任せ、父に事態を報告するために実家に戻ってきた。
「というわけで、俺にアルグレア侯爵位、もしくは肉奴隷が手に入ります。後者の場合に地下牢を一つ使わせてください」
「僕、家名を貶めるようなことは慎んでほしいって言わなかったかなあ?」
「ハハハ、父上、よりにもよって同年代に魔法でケンカを売られる以上の屈辱が我が家にありますか?」
俺がそう言うと父はなにも言えない、というような情けない顔になった。それはそうだ。
我が家は元、というか正確には元々々々々々公爵家だった、と言うのが正確だろうか。ハイリヒ王国建国王が健在だった頃に興った最古の公爵家の1つだ。
RPGのパーティーかよ、と言いたくなるが、王=勇者、みたいな感じとして残りの4人が剣士、僧侶、盗賊、魔法使い的な感じで公爵家が成立した。
盗賊がアウトローすぎる。だから滅んだ……
そういう経緯があるので、爵位が下がって領地が減るに従って家臣が減ろうが、魔法には絶対の自信があるのがウィザーディアという家系なわけだ。
イザベラが手に入るという欲望で頭が濁っていたからよかったものの、違う順番でたかだか新米侯爵家令嬢ごときに「魔法で勝負だ!」などと言われたらノータイムで消し炭にしていただろう。
我が家を没落させた先祖が理由であるにしろ、ウィザーディアとしての魔法の研鑽をするばかりで世間的な評判を上げてこなかった父にも問題はあるのだ。
「それでは父上、俺はこれで休ませてもらいます」
そう言って執務室を後にして自室に戻る。
「正式な手順を踏んでいるのに一体なにが悪いと言うのか」
自分は違法にやってる癖に。
昔のことを思い出す。
物心がついたのは2歳くらいの頃だろうか。父に魔法を教わっていた。期待にはそぐわなかったのか冷たい目で見られていた。
3歳頃、前世の記憶が蘇った。特に混乱するなどはなかった。そんな余裕がないと理解していたせいかもしれないが。
父の目が、態度が、日に日に悪くなってきていて、リミットもわからないまま合格ラインに辿り着かなければ死ぬと感じて、前世の記憶や発想を総動員して父の教育を乗り切った。
5歳になるころには今の父の態度に近くなり、6歳の春に国王陛下に拝謁に上がる前に、地下室なども含めて我が家のことをある程度教わった。その時からずっと1ヶ所、地下室は埋まったままだ。
15歳の今に至るまで、俺は母親を見たことも存在を聞いたこともない。母親不明の嫡子とかなかなか笑えるけど前世の記憶が戻らなかったら俺は処分されて、地下室で新しい嫡子が生まれたんだろうな。
将来の子供を処分しようとは思わんが、嫁が見つからんと似たような思いをさせるのか。
妊娠、出産のシステム的に父親不明はよくある(あったらたまらん)けど母親不明ってなんですかね。捨て子でもないのに。