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侯爵家息女と決闘します

「ラスト・アルトフィア・ウィザーディア伯爵子息! 貴方に決闘を申し込みます!」


 いったい何事か。王子が入学するからバカみたいな倍率になっている試験をくぐり抜けてこの王立学園に入った筈の生徒が、どうしてこんな馬鹿な発言をしているんだろう。

 同席している優男を見るが肩をすくめて昼食を再開しやがった。お前由来だと思うんだがなにか知らないのかよ。仕方なく視線を戻す。


「貴方は第三王子殿下に側近にと誘われたのに断ったそうですわね。そのような不忠者にはこの学園にいる資格はありません! 私が勝ったら退学しなさい!」


 やっぱりお前が理由じゃないかと睨むがなんの反応もしやがらねえ。こんな馬鹿に対応しなきゃいけないのか。


「名前も名乗らぬ無礼者との決闘など受けるはずがない。貴族教育を満足に受けられなかったのか?」

「失礼な! 私はイザベラ・フォン・アルグレア! 侯爵家の者よ!」


 アルグレアねー。ウィザーディアから王領を挟んで大分遠くだな。そんなだから俺にケンカを売れるのか。仕方ないとはいえ我が家の威光も落ちたもんだ。


「ふむ、アルグレア家息女どの、俺が勝ったら一体どうしてくれるのかな? 貴女が退学することに俺は何の意味も見出だせないが」

「私に負けるのが怖いというの?」

「勝つ旨味のない決闘など何のために受けるというのだ。決闘の強要は重罪だと習ったのだろう? 受けるに足る対価を天秤に乗せられなければいくら吠えられようとも決闘はしない」


 そう言い放ってカレーを食べ始める。やはり前世のものと比べると違和感があるな。まあ完全再現は難しいか。材料が全種この世界にあるかも怪しいし。


 しかし吠えても受けないと言っているのにうるさい女だ。どこぞの貴族の養子にして娶ったとかいう商家出の母親の影響か金だの珍しい品だの、そんなものいらんというに。いやそれにしては決闘とか言い出すのはよくわからんな。


 食べながらそんなことを考えていると、取り巻きの2人に耳打ちされてさらに正気を疑う発言が出てきた。


「ならば爵位を賭けましょう。私が勝てば貴方の退学とウィザーディア伯爵位を、貴方が勝てばアルグレア侯爵位を。それでよくて!?」


 この食堂で今の言葉が聞こえた者は誰もが驚愕してこちらを見ているだろう。優男すら動揺の気配をはっきり見せる程だ。


 俺はイザベラの姿を見る。

 今は特にだろうが、キツめの、しかし美しく整った顔。第三王子を誘惑する目的があるのか露出が多めの服から覗く白い肌と豊満な胸。滑らかな金糸のような髪。

 文句なしだ。おっと、ポーカーフェイスを保たないとな。


「クロード、第三王子として決闘の合意を承認してくれ、日時はいつにする?」

「善は急げと言います、今日の放課後でよろしいですわね?」

「もちろんだ。決闘方式は武器のみか、魔法のみか、複合か、どれがいい?」

「魔法のみで、決着条件はいずれかの戦闘不能ですわ。よろしくて」


 マジかよこいつ、今日何度目かわからんがまたそう思わされた。一番勝ち目のない方式で挑んでくるのか。というか本当に我が家の知名度下がりすぎてない?

 まあどれでも勝つからいいんだが。


「クロード」


 わかってるよな、止めるんじゃねえぞ。


「第三王子クロード・モノ・ハイリヒの名において決闘を承認する。今日の放課後、場所は魔法訓練場で行うものとする」


 さすがに逡巡したようだが決闘は承認された。まあ借りができたわけで、最低でもその分はクロードのために動く必要ができたが。


 首を洗って待ってなさいっ、などと言ってイザベラとその取り巻きが離れていく。日本由来っぽい言い回しだなあ。断首自体はわりとどこでもあったっぽいから違和感はないが。


 後は放課後までに情報を仕入れて心変わりしないように、ちゃんとしないとな。







 さあやってきました放課後、決闘改め奴隷GETのお時間です。え? 決闘で賭けるのは爵位じゃないのかって?

 HAHAHA、当主でもないのにそんな簡単に爵位を賭けられるわけないっしょ。俺はまだしも嫡男だけど向こうは跡取り娘ですらないぜ?

 まあ一応は本当に爵位がかかってるけど貴族家当主は家人の決闘結果を反故にする権利があるのよ。だから実質爵位はかかってないのと同じ。

 まあもちろんノーペナルティなわけはないのですが。その者は我が家の家人ではないので我が家の物を賭けた決闘は無効です、その者はお好きにしてください、ということだ。


 今となっては唯一の合法的に奴隷を得る方法だ。犯罪奴隷は重労働と使い道が決まってるし、借金奴隷に無体な真似はできない。偉大なる国王陛下の治める統一王国において戦争など起きやしないし、制度を通さない闇奴隷は家門断絶から九族皆殺しまであるレベルのヤバい罪だ。なんか殺し方がえらいエグかったらしい。やる奴は長らくいない。


「それでは決闘を執り行う。始め!」


 聞き流していたが決闘の経緯や賭けの内容、フードを被った正体不明の真偽判定の資格者による決闘の強要がないかなどの長い前フリが終わり、ようやく始まった。


「ようやくこの時が来ましたわ。さあ学園から消えなさい、マグマボール!」


 イザベラが足元に魔法陣を形成し、魔法名と共にマグマを模した火球を放つ。


 速い。強い。大きい。多い。


 魔法陣の形成開始から魔法を放つまで2秒以上かかっている。これを速いとは言わない。

 魔法の発射から(防いでいるが)着弾まで約1秒、開始距離から秒速20mほどか。威力を考えれば中々だがこれも速いとは言わない。

 何が速いかと言えば回転だ。連打速度だな。これもそれだけなら秒間5発ほどと大したことはない。

 ただし、防御が困難な威力で直径50cmのものを連打できるとなれば話が違ってくる。強みを押し付ける前提に立てば学生の上位1割には入りそうな強さだ。


 正直舐めていた。アルグレア侯爵家は近隣の伯爵家がいくつか潰れたのと、イザベラの母親の実家の商家と共同開発したなにか女向けの商品が貴族女性に非常に好評を博した結果数年前に陞爵した最も新しい侯爵家だ。

 なので血統的にも教育的にも伯爵家レベルだろうから強さも伯爵家レベルを想定していたんだが。完全に上を行かれたな。


 ただ、まあ。

 魔法に限定して俺に勝とうと言うなら、公爵家当主や魔術師団長クラスを連れてこないと若輩を言い訳に負けることもできないんだが。


 約1分間の打ちっぱなしが終わり、煙やらなんやらが薄れゆくとイザベラが肩で息をしているのが見える。

 うーん、一球一殺でやれるなら単独でオーガ300体程殺せるな。まあ今は無理だろうけど。


「さて、俺にダメージは全くないがまだ続けるかい?」


 イザベラは愕然とした顔をするが、すぐに切り替えて乏しくなった魔力を回して魔法を構築しだす。


 ふむふむ、威力だけじゃどうしようもないと見て詠唱も魔法陣もなしでタイミングを悟らせずに雷でズドン、か。考えてるね。根本的に詰んでる状況じゃなければもっと良かった。

 そろそろ邪魔するか。


 特に意味はないがそれっぽく見える感じに印を組んで手を動かす。

 すると8割ほどの完成度の雷魔法をイザベラが放とうとするが、なにも起こらない。魔法を封じたからな。

 さらに追加パフォーマンスをし、地面から岩の鎖で手足を封じ、氷柱をイザベラの周囲に多数浮かべる。

 イザベラの顔色が青ざめていく。氷柱いっぱい出して気温下がったからかな?


 クロードを見るとため息をついてから、宣言する。


「決闘の勝者はラスト・アルトフィア・ウィザーディアとする!」

異世界の学園テンプレよろしく身分差のある相手でも口調や態度だけで不敬罪になったりはしません。

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