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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
8.講和会議

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その5

「リーラン王国側はそれに対して、どう思われるのですか?」

 エリオが何も発言しようとしないので、法王は不思議そうな表情でそう聞かざるを得なかった。


「それでは、発言させて頂きます」

 こう言って、さっと立ったのは、ヤルスだった。


 エリオではなく、ヤルスが立った事で、会場の雰囲気がガラッと変わった。


 リーラン側の間の抜けた空気が、一気に正常に戻った感じだった。


 先程までは、ルドリフの独壇場で、威圧感があったが、それから完全に解放された感じだった。


 単なる気のせいなのだが、その為か安堵感があった。


 気のせいなのは、会議では何も決まっていないからだった。


 そうそう、エリオではなく、ヤルスが答える羽目になった理由を記しておこうと思う。


 決して、エリオが間抜けだから、交渉役に向いていないという訳ではないのではない。


 まあ、雰囲気が変わった事からお察し願いたい。


 今回、噂通りだったら、エリオ自身が矢面に立つのは相手を挑発しかねないので、遠慮する事とした。


 それに、事前の打ち合わせで、エリオとヤルスの交渉目的は一致していた。


 ・こちら側は講和を望むが、妥結しない事を見越している事。


 ・譲歩は一切しない事。


 ・なるべく波風立てないように交渉を終える事。


 この3点を基本としていたので、ヤルスに任せる事にした。


 事実、会議に連れてきた事務官3人はヤルスの部下ばかりで、副官のシャルスも連れてこなかった。


(そうか、丸投げって、こんなに気持ちがいいものなんだな!)

 エリオはヤルスが矢面に立ってくれたので、変な事を考えていた。


 これだけ楽なら、人が自分に仕事を押しつけてくる気持ちが分かってしまった。


(これからは、絶対に『丸投げ』を激増させよう!)

 エリオは、固く決意した。


(やはり、この人は特別な才能を持っている……)

 ヤルスはヤルスで、始める前にエリオを見て、そう思っていた。


 とは言え、これは狙ってやっている訳ではなく、そうなってしまうと言った類いのものだった。


 ある意味希有な存在ではあるが、決して才能によるものではなかった。


 そう、ただの存在によるものだった。


 希代の用兵家は、希代の意味通り、その能力が発揮される場面も、希代なのかも知れない。


 まあ、それはともかくとして、話を進めよう。


「リーラン王国側は今回の件で、首謀者の処分は済んでおります。

 それは、駐在大使や事務官から、何度も説明させて頂いている筈です」

 ヤルスはいつもの冷静無比な口調でそう言った。


 ここで言う首謀者とは、前アリーフ子爵サイオの事だった。


 海戦後の御前会議後、こう言った講和会議が開かれるかも知れない事を察して、ヤルスが中心になって、方向性の修正が行われていた。


 サイオは戦死したのではなく、重傷を負ったが、命は助かった。


 しかし、今回の海戦の責任を取るという形で、自決したという筋書きに変えられた。


 サイオの遺体を回収した時に、エリオはこの事まで考えていた訳ではなかった。


 だが、結果的にサイオの遺体があったお陰で、こう言った筋書きが成り立たせると言った形になっていた。


(それにしても、無茶苦茶な話だな。

 死者にも協力させるなんて……)

 エリオはこの話を聞く度にそう思ったが、口には出さなかった。


 自分も共犯だという事を自覚していたからだった。


 ヤルスの言葉に対して、ルドリフはそっぽを向いてしまい、明らかに相手にしていないと言った感じだった。


「それに引き換え、ウサス帝国の方は、首謀者に対して何らの措置も行っていない。

 これはどういう事でしょうか?」

 ヤルスは抑揚のない口調でそう言った。


(ああ、そこまで言っちゃう?)

 エリオはヤルスの言葉にすぐにそう感じた。


 抑揚のないので、ルドリフが話している時と比べて、何の迫力もなかった。


 だが、結構辛らつな言葉を吐いており、相手を追い詰めるのには効果的であった。


「何故に、我が国がそのような事をしなくてはならないのか!」

 その為、ワン・テンポ遅れて、ウサス帝国の大使が立ち上がって抗議した。


「大使殿、まだ発言中なのですが」

 ヤルスは冷たい口調で、冷たい視線を大使に送った。


(穏便に行く筈だったよね……)

 エリオは頭を抱えたくなっていた。


「……」

 大使は言葉を続けようとしたが、ヤルスの冷たい視線でたじろいだ。


 その為、全体に沈黙が訪れてしまった。


 ……。


 その間、ヤルスは黙って、冷たい視線で大使を見続けた。


 睨み付けていた訳ではなかった。


 ある意味、軽蔑の視線といった方がいいのかも知れない。


 そう、礼儀知らずと言った感じだ。


 どうしようもなくなった大使はルドリフの方を見た。


 ルドリフは腕組みをしながらゆっくりと首を横に振った。


 そこで、仕方なく大使は席に着いた。


「では、話を続けます」

 ヤルスはそう言った。


(うぁー)

 エリオは声を上げたいのを我慢した。


 礼儀知らずを直接咎めるのではなく、こういう言い方で際立たせた事を感じたからだ。


 エリオと違って、明らかにヤルスは狙ってやっていた。


「我が国だけが、首謀者を処罰し、帝国はそれをしない。

 それどころか、処罰をした我が国に対して、更に不当な要求を突き付けています。

 これが正義と言えるのでしょうか?」

 ヤルスはそう言うと、静かに席に着いた。


(侯爵は話し出すと、結構、饒舌で強気になるのだな……)

 エリオは感心するような、だが、半分は後悔したような気分になっていた。


 こうなってしまったら、穏便という状況にはならないだろう事が予測されたからだ。


 とは言え、自分が話していたら、もっと酷い事になった事は想像に難くなかった。


 なので、エリオは意識的に口をギュッと結んでいた。


「先程から首謀者、首謀者と言っているが、その処分された首謀者より上の位にいる人間がいただろうに。

 下の者も統制が出来ないとは、情けない限りだな」

 ルドリフはエリオを睨み付けながらそう言った。


 完全に喧嘩腰であり、挑発してきた。


「その下の者に、突っかかる人物はもっと情けないと思いますが」

 こう言い放ったのはヤルスだった。


 エリオが、ルドリフの言葉にやれやれと思う前に、間髪入れずに言い返していた。


 しかも、これまで通り抑揚もなく、迫力もないのだが、言葉が辛辣だった。


「どう言う意味だ?」

 ルドリフは今度はヤルスを睨み付けた。


(何だ、感情を抑えられるじゃないの!)

 エリオは、ルドリフに対して妙な感心をしてしまった。


 どうやら、エリオ以外には、感情のコントロールはできるようだった。


「我が国の艦隊に挑発行為を行ったという事ですよ」

 ヤルスは顔色一つ変えずに、そう答えた。


(あの、侯爵殿、どちらかと言うと、あなたが挑発しているのでは?)

 エリオは、2人のやり取りを聞いていて、ヤバいと感じ始めていた。


 だが、蚊帳の外に、自分自身で、喜び勇んで出た以上、どうしようもなかった。


 オロオロ……。


 エリオは内心焦り始めていた。


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