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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
8.講和会議

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その1

 太陽暦534年8月、エリオは洋上にあった。


 先の海戦に関することで、現法王ヨーイス83世に正式ルートを通じて、講和要請があったからだ。


 この世界の教会は戦いを嫌う傾向にあるので、ある意味、当然の事かも知れない。


 事の詳細は両国の駐在大使により説明されて、事態の収拾を図られていた。


 だが、法王は正式に外交問題として取り上げる事を決断し、国家としての対応を最高レベルに上げるように要請した。


 まあ、海戦場所が場所だけに、このままにしておけなかったのだろう。


 リーラン王国はこの要請に対して応じることとし、特使を送ることとした。


 代表として、エリオ、副代表として、ヤルスが選任された。


 当事者だからと言うだけではなく、海軍府は対外戦争の指揮を執るだけではなく、外交交渉も責任者としての役割もあった。


 まあ、軍事行動も外交の一種なので、分かれていなくても不思議はないのかも知れない。


 話し合う前に、1発ガツンとやってからという思想が、世界共通と言う事なのだろう。


 陸軍府は、時には海軍との共同作戦を行う。


 だが、基本的には国内治安の維持が主体であり、普段は公安活動をしている。


 したがって、陸軍の出番は今回にはない。


 リーラン王国は貴族の序列からも分かる通り、海軍優位の国である。


 まあ、島国なので、当然か……。


 中務府は、内政を統括する。


 そして、外交交渉は結果的に内政に影響する。


 なので、外交の補佐を行う必要がある。


 よって、中務府の者が、同行する事となった。


 カカ候ヤルスは、内政担当ナンバー2である。


 ヘーネス公爵家の嫡子で成人しているので当然ではある。


 そして、それは実力を伴ったものである。


 一方、ウサス帝国の方は、ハイゼル候ルドリフが代表としてやってくるようだ。


 ……。


 特に、感想はない事はないが、最高位の人間が出て来てはいない。。


 帝国がどういうスタンスなのか、疑わしい局面でもある。


(やれやれ……)

 エリオはいつものようにそう思いながら、甲板に出た。


 怠惰に過ごしたい人間にとっては、何事も面倒な事である。


 まあ、甲板に出たのも、サボる為……いや、気分転換の為だった。


(おや……)

 エリオは甲板に出ている人物を見付けて、近付いていった。


 その人物はヤルスだった。


 少し辛そうに、艦の縁に突っ伏すように立って、遠くを見つめていた。


「船酔いは良くなりましたか?」

 エリオはヤルスにそう声を掛けた。


 普段無口で、無表情なヤルスだが、この時ばかりは違っていた。


 また、欠点だらけのエリオにとって、完全無欠のヤルスのこう言った姿を見ると、少し安心する所があった。


 ヤルスは仕事が出来るだけではなく、次世代の剣聖としてクルスと並び称されるほどの腕前を持っていた。


 正に文武両道の完璧人間だった。


 因みに、現剣聖はロジオール公であり、サリオが健在の時は2人を二剣聖と称していた。


 言うまでもないが、エリオはクライセン家始まって以来、比類なき人物で、剣の才能がマイナス方向に振れていた。


 サリオ曰く、

「清々しいを遙かに通り過ぎるほどの腕前」

と評されるほど、評価のしようがない腕前だった。


 まあ、要するに何と言っていいか分からない程、酷いレベルといった所だろう。


 時代が移り変わる度に、剣聖が現れるのだが、1人だったり、2人だったり、時には3人、4人だったりする。


 現状は1人だが、次世代は2人ではなく、3人と言う者もいる。


 3人目はリ・リラだった。


 彼女は女故に、ヤルスとクリスみたいに大人数を捌くことは体力的に厳しいが、1対1のみで戦ったら、2人を凌ぐと言われていた。


 エリオにとっては落ち込むような話かも知れない。


 でも、まあ、サリオはこうも言っていた。


「エリオは剣士道においては、誰にも勝てないのは確実だ。

 だが、本気の殺し合いになったら、ヤツに適うヤツはこの世にいないだろう」


 何とも物騒な言葉で、そう言った逸話がある訳ではない。


 だが、それ故に、サリオはエリオの剣を鍛えようとはしなかった。


 まあ、そんな話はともかく、完璧じゃない部分が見られたヤルスに対して、少しは親しみを持つ切っ掛けになった事は確かだった。


 クライセン家とヘーネス家は緊張関係にあるので、こう言った感じのほのぼの感は必要なのかも知れない。


 とは言え、エリオはそう言った政争が理解できていないので、敵対関係と言うものを持ち合わせていなかった。


 この場合、話す切っ掛けのネタを提供したヤルスにとって、幸いしていたと言った所だ。


「閣下の仰るとおり、潮風に当たり、遠くを見つめる事で何とか……」

 ヤルスは少しやつれているような感じだった。


 だが、口調はいつも通りの冷静無比な感じが漂っていた。


 それが却って、可笑しい気がしたのが、エリオは黙っていた。


 それにしても、年上なのに自分を閣下呼ばわりしてくるのは律儀だと感じていた。


 確かに爵位は今はエリオの方が上だが、いずれは並ぶ。


 そう思うことがあったので、閣下呼ばわりは止めて欲しいと言ったのだが、けじめは大事という事でこうなっていた。


「それは良かったです」

 エリオは笑顔でそう言った。


 あ、まあ、大丈夫ではないのは誰の目にも明らかなのだが、そう言うのならそう答えようと思っていた。


「ご心配掛けてすみません……」

 ヤルスはエリオの笑顔で却って、気を遣っているのを感じてしまった。


「あ、大丈夫ですよ」

 エリオはこんな状況なのに、心情を読み取られてしまい、恐縮した。


 どんな状況にあろうと、ヤルスの観察眼は衰えないらしい。


 ……。


 とは言え、2人の間に会話が続かなかった。


「そう言えば、貴公の部下達は船酔いの方は大丈夫みたいですね」

 エリオは話題を変えることにした。


 まあ、あまり変わっている気がしないのだが……。


 この辺が、エリオらしいのかも知れない。


「彼らは若い時分から全国を駆け回っていますから、旅慣れているのです」

 ヤルスは珍しく苦笑しながら言った。


 まあ、今の自分の状況と比べると、こう言った形で答えざるを得ないだろう。


 そう考えると、エリオの口にしたことは間抜けかも知れない。


 実際、エリオは間の悪そうな表情になっていた。


 まあ、いつもの表情であるが……。


「閣下、1時方向にハイゼル艦隊を確認しました」

 シャルスが敬礼しながらそう報告してきた。


 ぴっきーん!!


 今までゆるゆるしていた空気が一気に、変わるのを身震いしながらヤルスは感じた。


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