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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
7.バルディオン王国

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その1

 サラサの予言通り、スワン島沖海戦は一気に終息した。


 いきなり話が戻ったが、サラサ視点の話である。


 アリーフ艦隊と合流したエリオ艦隊は戦場を一気に離脱していった。


 その逃げ出し振りは、流石であった。


 なので、呆れるのではなく、サラサは逆に感心していた。


(戦略的に意味のない戦いはしないって事ね……)

 サラサはリーラン艦隊が去っていく姿を見つめながら空恐ろしさを感じていた。


 と同時に、武者震いする思いもあった。


 好敵手に巡り会えたと言った感じだろうか?


 とは言え、これはサラサの独りよがりに過ぎないかも知れない。


 エリオにとっては、サラサの存在は迷惑そのものだと感じていたからだ。


「さてと、こちらはどうかしら……」

 サラサはルドリフ艦隊の方に視線を向けた。


 ルドリフ艦隊の方は、明らかに落胆している様子だった。


 海戦には勝利したものの、損害が大きくなってしまった事が原因だった。


 まあ、戦果損害の話は大した事ではないのかもしれない。


 やはり、エリオに翻弄された上に、まんまと逃げられてしまったのは精神的にきついのだろう。


 とは言え、艦列はすぐに整えられてつつあった。


 冷静ささえ失わなければ、ルドリフはそれ程悪い指揮官ではない証拠でもあった。


 だが、裏を返せば、冷静さを失わせるほど、エリオという存在は厄介なものだった。


 いるだけで、人を逆上させる希有な存在とでも言うのだろうか?


「帝国艦隊と合流後、ワタトラに帰還する」

 サラサはルドリフ艦隊の様子を見て、安心して命令を下した。


「敵は随分とあっさりと引きましたね。

 あのまま攻撃を続けたらもっと戦果が上がったと思いますが……」

 バンデリックはサラサの予想通りになったので、驚いていた。


「そうかも知れないけど、それは戦略的に全く意味をなさないわよ」

 サラサは何も分かっていないわねと言った表情だった。


「戦略ですか?」

 バンデリックはサラサの言った事の意味が飲み込めないようだった。


「まあ、有り体に言ってしまえば、戦果を上げる為に損害を出してしまったら元も子もないという事よ」

 サラサは一段低いレベルでの話をした。


 ここで、エリオの戦略の何たるかを蕩々と話しても無駄だと思ったからだ。


「戦いの勢いから見ると、損害の心配はあまりないかと思われますが……」

 バンデリックはまだ納得し難いと言った感じだった。


「あれだけ無茶な艦隊運動を続けていたら、流石に息切れするでしょうから、余裕を持って撤退と言った所でしょうね」

 サラサはとりあえずはバンデリックに付き合う事にした。


 自分の考えも整理にある事だったので、邪険にはしなかった。


「余裕がありすぎのような気がしますが……」

 バンデリックは次から次へと疑問点を投げかけてきた。


「戦いは何が起きるか分からないから、余力があるに越した事はないでしょうに」

 サラサはバンデリックの疑問に次々とあっさりと答えていった。


「でも、あのまま敵が戦い続けていたら、どうなったのでしょうか?」

 バンデリックはまだ疑問を持っていた。


 サラサはそろそろ面倒くさくなってきた。


 とは言え、戦況を一気に挽回して、これからと言った時に、撤退したと傍目から見えるのはやむを得ないとも思っていた。


「帝国艦隊の損害が増えれば、我が艦隊が参戦せざるを得なくなったでしょうね」

 サラサはこれで全て納得したでしょという表情を浮かべた。


「成る程!」

とバンデリックは感銘したが、すぐに、

「しかし、クライセン公はそこまで考えて戦っていたとしたら、相当厄介な相手ですね」

と不安を口にした。


「ええ、確実にそう考えて戦っていたわね」

 サラサはエリオの心情を完全に理解していたかのように、そう言った。


 実際、エリオがサラサの考えと100%同じに行動していた訳ではないが、ほぼその通りだっただろう。


「忌々しいヤツだわ!!」

 話している内に、サラサは心の底からそう感じて、その言葉を吐き出していた。


 これは同属嫌悪というものだろうか?


「……」

 バンデリックはそんなサラサをじっと無言で見ていた。


 何だか、妙に感激している様子だった。


「???」

 サラサはすぐにそれに気が付き、バンデリックを訝しげに見た。


「……」

 バンデリックは尚も何も言わずに、サラサを見ていた。


 2人の間に変な沈黙が流れた。


「何なのよ!!」

 堪りかねたサラサは当然、怒りの声を上げた。


「あ、すみません。

 感動してしまって……」

 バンデリックは謝ってはいたが、態度がとてもそうではなかった。


 何と言うか、しみじみしているというか、そんな感じだった。


「???」

 サラサは怒りの次に当惑の表情を浮かべていていた。


(そう言えば、こういう事がたまにある気がする……)

 サラサは嫌な予感がしていた。


 まあ、正確に言えば、サラサにとって嫌な事ではなく、バンデリックにとって不幸な事なのだが……。


「ちょっと感激していまいまして……」

 バンデリックはサラサがどう感じているかを無視して、話し始めた。


「それはさっき聞いた……」

 サラサは先程予感した為に、ぶっきら棒にそう言った。


 あ、いや、さっきは感動で、今度は感激。


 ああ、そんなのどうでもいいか……。


「敵将の意図を見抜き、よくぞ冷静に対処なさいました」


 バンデリックの褒め言葉を聞いて、サラサはうんうんと頷いた。


 ストレートに褒められたので、ちょっと照れてしまいそうだった。


「戦い好きなのによく参戦を我慢しました。

 成長しましたね、お嬢様」

 バンデリックは感極まったようにそう言った。


 ぐっへぇ!!


 感極まった表情は悶絶の表情に変わった。


 甲板にお腹を押さえて跪いたバンデリックの横をサラサは颯爽と通り過ぎた。


「帝国艦隊と合流せよ。

 然る後に、ワタトラに帰還する」

 サラサは自ら伝令係に命令を下した。


 雉も鳴かずばたれまい……。


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