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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
6.リーラン王国

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その11

 王族のみで行われた朝見の儀の後は、貴族階級を集めた祝賀の儀である。


 そして、貴族の中でも序列という者が存在する。


 謁見の間に入れるのは爵位を持った貴族だけである。


 また、その中でも完全に序列があり、伯爵位以上の貴族は前列に配置されていた。


 3公爵家、3侯爵家、5伯爵家の11家の当主が配置されている。


 家が付いているので、この11家には爵位の代々の世襲が許されている特別な一族達である。


 所謂、上級貴族と呼ばれる。


 3公爵家は、言うまでもなく、クライセン、ロジオール、ヘーネスである。


 3侯爵家は、大蔵省大臣スリアン候、民部省大臣マルチアン候、刑部省大臣フロイトン候である。


 5伯爵家は、駐スワンウォーリア法国大使ローグ伯、宮内庁長官ローア伯、神祇庁長官スワリトン伯、大学庁長官モリソン伯、そして、ホルディム伯である。


 伯爵位以上にも一代限りで就く者もいるが、現在は1人もいない状態である。


 その11家の後ろに、明らかな間を空いている。


 これは謁見は許されている者の、直接意見を奏上できる人物は伯爵位以上の者だからだ。


 これが間の意味である。


 11家の間の後に、子爵位の貴族、また少し間を開けて男爵位の貴族が配置されていた。


 男爵位の下には、順に上士、平士という称号がある。


 この2つの称号は正式には貴族ではないが、平民でもない為、便宜上、下級貴族と呼ばれ、これらも世襲制ではない。


 上士は、軍人では大佐もしくは中佐、官吏では部長クラスが上士の称号が与えられる。


 平士の称号は、軍人では少佐もしくは大尉、官吏では課長クラスに与えられる。


 ただ、上士と平士のほとんどは今回呼ばれている訳ではない。


 上士の中で、冠位が最も高い正六位上の者しか呼ばれていなかった。


 そして、呼ばれた上士達は謁見の間には入る事は許されずに、謁見の間に続く中庭に配置されていた。


 この事から見るに、リーラン王国は完全に階級社会であるが、上層部以外は意外に流動性を持っていた。


 貴族・下級貴族の出席者は揃ったが、儀式はまだ始まらなかった。


 なので、久しぶりに集まった面々で其処彼処で会談が設けられていた。


 その中に、クライセン一族の面々の会談があった。


 クライセン一族で、この儀式に参加しているのは、エリオを始め、4人の男爵だった。


 エリオは立ち位置が違う事もあり、この会談には参加していなかった。


 4人の男爵は、東方第1艦隊司令のティセル男爵、第2艦隊司令のアトニント男爵、北方艦隊司令のアスウェル男爵、そして、海軍総参謀長のリーベー男爵だった。


 ティセル男爵とアトニント男爵は兄弟であり、クライセン家発祥の地に駐留する艦隊を率いていた。


 2人はエリオの従兄弟伯父に当たる。


 ちなみに、リーベー男爵とはマイルスターの事である。


 平民出身者だろうが、将官に昇進と共に、男爵位に叙せられる。


 他の3人は形としては、世襲制ではないが、ほぼ世襲制であり、冠位は正五位下で、階級は少将。


 それに対して、マイルスターは従五位下で、階級は准将。


 マイルスターは、一応、階級・冠位共に、格下になる。


 3人の提督はクライセン公爵惣領家の連なる血筋であり、それと同じ爵位になってしまっていた。


 当然、マイルスターは気が引けていた。


 なので、参謀長にはカライカン男爵という称号になるのだが、寒村であるリーベーの称号を選んだのは並々ならぬ気の使いようだった。


 何だか前置きが長くなってしまった。


「マイルスター、エリオ様は大丈夫だろうか?」

 ティセル男爵はいきなりそう切り出してきた。


 しかし、質問の内容とは裏腹で、心配そうな表情を全くしていなかった。


 むしろ、楽しげと言った感じだった。


「そうそう、それは俺も思っている」

 兄の質問だか意見だか、分からない言葉に、弟のアトニント男爵は同調した。


 表情も同調しているのは言うまでもない。


 それをアスウェル男爵はやれやれと言った表情で見ていた。


「はぁ……、どうなんでしょうね……」

 マイルスターは2人の表情から真面目に答えていいのか迷っていた。


「金勘定と戦闘に関しては無条件に信頼できるのだが……」

 ティセル男爵はわざと深刻そうな口調で言っていたが、表情まではそうなっていなかった。


「いやいや、兄上、その2つは無条件どころか、想定以上でしょう」

 アトニント男爵は既に口調さえも深刻さを維持できないようだった。


 兄弟の間にはエリオに対する共通の認識があった。


 兄弟は元々あまり仲の良い兄弟ではなかった。


 ぶっちゃけると、ライバル心剥き出しで、事ある毎に対立していた。


 あまりの不仲さにサリオが、どちらかの任地をアスウェル男爵の任地と入れ替えようとした程だった。


 それが何の因果か、今の信頼関係を構築するに至っていた。


 切っ掛けとなったのは、エリオ10歳の時の初航海だった。


 エリオの初航海の行き先として、2人の東方地域が選定されていた。


 それが切っ掛けで、兄弟の仲は急速に回復する事となった。


 そして、エリオにも一目置くようになった。


 その話は、長くなるので、それはまた別の話で。


 とは言え、エリオの見た目の頼りなさはいつまで経っても拭いきれないものとして残っており、当初の質問となった訳だった。


 心配している事柄は、儀式で貴族の代表として、エリオが挨拶する事だった。


 まあ、口振りから察すると失敗しても大した事がないと思っているのか、失敗したエリオが狼狽える所を見て見たいと言った感情が含まれているように思われた。


 無論、エリオの失敗はクライセン家の恥にもなるので、本心からそう思っている訳ではなかった。


 ただ、あの頼りない顔から正論を吐く姿や、無類の強さを見せる海戦などを思い返すと、変な感情が湧いてくるものらしい。


 この感情に関しては、クライセン一族全体に漂うものであり、上も下も関係なく、共通認識のようだ。


「貴官達、もうその辺でよろしかろう。

 公爵閣下が、本当に失敗したら目も当てられないだろう」

 アスウェル男爵は兄弟にそう注意したが、きつくした訳ではなかった。


 男爵自身もエリオが失敗するとは思っていなかった。


 注意された兄弟はお互いに顔を見合わせてから、アスウェル男爵を見て、ゆっくりと頷いた。


 悪ふざけはここまでにしようと言った感じだった。


「しかし、閣下は少しお変わりになったのでは?

 御前会議で、大分権限を取り戻されたし」

 アスウェル男爵は別の質問をマイルスターにした。


 その質問に興味を持ったのか、兄弟もマイルスターの答えに注目していた。


「その事ですが、偶然の産物というか、愛の力というか……」

 マイルスターはこの事に関しても何と答えていいか分からなかった。


「愛か……」

とティセル男爵が噛みしめるとように言うと、

「愛だな……」

とアトニント男爵が呼応するように言った。


「と言うと、閣下はようやくその気にあったのか?」

 アスウェル男爵の方はびっくりしてそう聞いてきた。


「それもどうなんでしょうか……。

 閣下自身に自覚がおわりかどうか、計りかねますから……」

 マイルスターはまたまたどう答えていいか分からなかった。


 マイルスターの答えを聞いた3人はどんよりとした気分になると共に、もどかしかった。


 ……。


 しばらく妙な沈黙が続いた後、

「権限を取り戻したまでは良かったが、何故王都駐留艦隊をまだ他人に任せているのだろうか?」

とアスウェル男爵が気を取り直すように、再び質問してきた。


「閣下が説明なさっていると思いますが、経済的な理由からです」

 マイルスターは初めてまともに答えられたと安心した。


「それは聞いている。

 理由も納得できる。

 とは言え、象徴的なものであるからもっと慎重に当たるべきだと思うのだが」

 アスウェル男爵は納得できないでいるようだった。


「アスウェル男爵、エリオ様は恐らく東方貿易ルートの構築を再開するのではないかと思う」

 ティセル男爵はそう口を挟んできた。


「俺もそう思う。

 経済活性化を重要視するエリオ様ならでの方策と見た」

 アトニント男爵も兄の意見に同意した。


「自分の構想を実現する為には、敵をも利用するといった所か……」

 アスウェル男爵は感心したと共に、呆れたように溜息をついた。


「敵ではないですよ。

 少なくとも、公爵閣下はそう思ってはいませんよ」

 マイルスターは男爵の意見をきっぱりと訂正した。


 マイルスターの言葉を聞いた3人は失笑する他なかった。


 当然、自分達の惣領に対してだった。


 ぎぃぃぃ……。


 このタイミングで、王族専用の扉がゆっくりと開かれた。


 そして、同時にざわざわしていた会場は一気に静かになり、各々配置に着いた。


 ……。


 しばらく、間を開けた後、

「王女ラ・ラミ殿下、王女ラ・ミミ殿下、ご入来!」

とローア伯が恭しく宣言した。


 それは、儀式開始の合図だった。


 宣言後、2人の王女はゆっくりと中に入ってきて、ゆっくりとひな壇に向かって歩いて行った。


 そして、ひな壇にある2つの椅子の両側にこちらを向いて、立ち止まった。


 それを合図にして、会場の一同は一斉にお辞儀をした。


 そして、数秒後、一斉に一同は頭を上げた。


 ……。


 王族への挨拶後、再び静寂が訪れたが、儀式はすぐに始まらなかった。


 会場の空気は更に緊張感が増していった。


 しばらく、静寂が続いた後、ローア伯が部下から合図を受け、

「女王ラ・ライレ陛下並びに王太女リ・リラ殿下、ご入来!」

と恭しく宣言した。


 これが儀式開始の合図だった。


 この合図により、会場の空気は一旦和らいだに見えたが、ラ・ライレとリ・リラが入ってくると、2人に注目が集中し、再び緊張感が漂ってきた。


 ……。


 ただ、漂ってきたのは緊張感と言うより、厳かな雰囲気と言った方が良かった。


 2人はゆっくりとひな壇に向かって歩いて行ったが、一歩一歩歩く度に厳かな雰囲気が増していくといった感じだった。


 2人はひな壇に設けられた椅子の前に立ち、こちらに向き直った。


 先にいた2人の王女と共に会場の一同が、2人に対して一斉にお辞儀をした。


 先程のお辞儀もそうだが、見事に揃っていた。


 そして、数秒後、再び一斉に一同は頭を上げた。


 ……。


 会場は依然として静まり返っていた。


 その事が更に厳かな雰囲気を醸し出していた。


「女王陛下のお言葉」

 ローア伯は声を張り上げている訳でもないのに、その声は会場中に響き渡っていた。


 それ程会場は無音だった。


「皆様、よくお集まり下さった。

 わたくしから、お礼を申し上げる」

 ラ・ライレはゆっくりと話し始めた。


 お礼を言われた一同は再び一斉にお辞儀をした。


 ラ・ライレはその光景を見ながら、一同が頭を上がるのを待っていた。


 ……。


 全員が頭を上げるまで再び厳かな静寂が訪れた。


「リーラン王国女王ラ・ライレは、立太子の礼を終え、リ・リラが正式にリーラン王国王太女としての地位に就いた事をここに宣言します」

 ラ・ライレは会場に響き渡る女王らしい口調でそう宣言した。


 うぉー!!パチパチパチ……。


 女王の宣言後、凄まじいばかりの歓声が上がり、拍手が盛大に行われた。


 歓迎の印だった。


 しばらく鳴り止まない歓迎の印に、ラ・ライレとリ・リラは微動だにせずにじっと待っていた。


 ……。


 再び静寂が訪れ、しばらく間を置いた後、

「王太女殿下のお言葉」

とローア伯の声が再び会場に響いた。


「女王陛下、ありがとございます」

 リ・リラはまずラ・ライレにお辞儀をして、お礼を言った。


 それまで無表情だったラ・ライレは、微笑んでいた。


 リ・リラはそれを確認してから、一同の方に向き直った。


「本日は、お集まり下さり、ありがとう」

 リ・リラはまず一同にお礼を言った。


 すると、一同はラ・ライレの時と同じく、一斉にお辞儀をした。


 前の繰り返しになるが、今度はリ・リラが一同の頭が上がるのを待った。


 ……。


 そして、同様に、厳かな静寂の雰囲気。


「わたくしはリーラン王国王太女として、恥ずかしくないように、今後益々精進する事をここに誓います。

 そして、リーラン王国の発展に皆と共に寄与したいと思っています」

 リ・リラはラ・ライレとは違っていたが、凜とした口調は何処となく似ていた。


 うぉー!!パチパチパチ……。


 王太女の宣言後、再び凄まじいばかりの歓声が上がり、拍手が盛大に行われた。


 儀式とは同じような場面の繰り返しなのだが、この歓迎振りは必ずしもそれに乗っ取った訳ではなさそうだった。


 リ・リラの人柄から歓迎する声を多いようだった。


 ローア伯は次に進めようとしたが、思った以上に歓迎の印が長く続いた。


 ……。


 ようやく厳かな静寂な雰囲気に戻った。


「臣下、国民を代表して、クライセン公爵閣下のお言葉」

 ローグ伯は事務的に次に進んだ。


 どっき……。


 エリオは自分の名前を呼ばれて、緊張感が増していた。


 自分の席からリ・リラ達がいるひな壇の前にゆっくりと進み出た。


 上手く歩けているかどうか分からないほど、緊張していた。


 まあ、こう言った場面はエリオが最も苦手としている場面なので、仕方がないのかもしれない。


 とは言え、リ・リラの為にしっかりと務めなくてはならないという責任感が強かった。


 結果的に、その責任感は更に緊張感を増す役割を果たしてしまった。


 だが、それ故に感覚が鋭敏になり、しっかりとした足取りでリ・リラの前に立つ事が出来た。


 エリオは立ち止まると、リ・リラを一瞬チラリと見た。


 リ・リラは余裕の微笑みを浮かべているようだった。


 少なくともエリオには、しっかりおやりなさいという態度に見えた。


 いつものリ・リラがそこにいたので、エリオは少し安心した。


 エリオはスッと腰を下ろして、跪いた。


 と同時に、会場の一同がそれに習って跪いた。


「恐れ多くも、臣下、国民を代表して、クライセン公エリオが申し上げます。

 立太子の礼をつつがなく終わられ、殿下が王太女の地位に就いた事を心からお喜び申し上げます」

 エリオは自分でもびっくりするくらいになめらかな口調でそう言った。


「ありがとう」

 リ・リラはそう返礼した。


「はっ」

 エリオは跪いたまま一礼すると、ゆっくりと立ち上がった。


 立ち上がると共に、エリオとリ・リラの目が合った。


 リ・リラはよく出来ましたといった感じでエリオに微笑みかけていた。


(この人は……)

 エリオは安心すると共に、自然と笑みになっていた。


 とは言え、これでエリオの役割が終わった訳ではなかった。


「王太女リ・リラ殿下、万歳!!」

 エリオは万歳三唱の音頭を取った。


 それを合図に、会場が万歳三唱の嵐に包まれていった。


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