その10
女王ラ・ライレとのやり取りをした事を思い出したリ・リラは、エリオの向こう臑を蹴飛ばしてやりたい衝動に駆られていた。
「リ・リラ王太女殿下、ご入来」
不穏な(?)空気の中、不意にローア伯爵が2人の入場を宣言した。
ぎぃぃぃ……。
伯の宣言後、エリオとリ・リラの目の前の扉が開かれた。
エリオはリ・リラをエスコートして、謁見の間へと入っていった。
王族を一堂に会しての、女王に対しての朝見の儀の始まりだった。
リーラン王国の純粋な王族は、現在、女王ラ・ライレ、王太女リ・リラの2人だけだった。
この世界では、家の後継者は男女問わずに、第1子が基本である。
ラ・ライレの第1子だったのが、亡くなった先の王太子だったル・シャン。
そして、その第1子であるリ・リラが王位継承順位1位となる。
また、純粋な王族以外に、王位継承権を持つ者がいた。
その人数が5人。
つまり、広域の意味では王族は7人となる。
この義は、広域の意味の王族内で、リ・リラが立太子の礼を終えた事を宣言し、祝意を貰うものであった。
朝見の儀の参加者は、女王ラ・ライレと王太女リ・リラがまず主役である。
王位継承順位2位のラ・ラミ。
彼女はラ・ライレの第2子であり、ヘーネス公マルスの妻であり、ヤルスの母親である。
王位継承順位3位のラ・ミミ。
彼女はラ・ライレの第3子であり、ロジオール公フルスの妻であり、クルスの母親である。
王位継承順位4位はカカ候ヤルス、王位継承順位5位はミモクラ候クルスである。
そして、クライセン公エリオは王位継承順位6位として、参加していた。
エリオは先王の曾孫に当たるので、ギリギリ末席に連なっている感じである。
王位継承権の順位は、不測の事態に備えて、こうしてきちんと定めておく必要があった。
また、それらの王族以外に、ローア伯は儀式の仕切り役として、部下の官僚と共に参加していた。
中央には女王ラ・ライレが鎮座しており、一つ下の段の左右に、ラ・ラミとラ・ミミが向かえ合わせで立っていた。
そして、それぞれの傍らにそれぞれの息子がいた。
エリオとリ・リラは5人の前まで行くと、エリオがリ・リラの右斜め後ろに退いた。
ぎぃぃぃ……、バタン。
全員が位置に着いた時に、謁見の間の扉が閉じられた。
「立太子の礼を滞りなく終え、リ・リラが王太女である事を、ここに宣明します」
ラ・ライレは改めてそう宣言した。
「本日、皆様、お集まり頂き、誠にありがとうございます」
リ・リラはそう言うと、頭を下げた。
と同時に、ラ・ライレ以外の5人が一斉にさっと頭を垂れた。
そして、リ・リラが頭を上げて、姿勢を今一度正すと、5人も頭を上げて、姿勢を正した。
「王太女としての責務を忠実に果たし、リーラン王国の益々の発展に寄与したいと存じます」
リ・リラはいつもの凜とした口調でそう宣言した。
エリオはそれを斜め後ろから見ていて、いつもながら感心していた。
先程までの不穏な(?)空気は微塵も感じられなかった。
「リーラン王国王太女リ・リラ殿下、万歳!」
ローア伯が万歳三唱の音頭を取った。
「万歳!」
先程の5人がそれに続いた。
儀式は次へと続くのだった。




