その14
サラサの予言通り、行くのだろうか?
「あの小僧、またやりやがった!!」
混乱する自分の艦隊を目の当たりにして、ルドリフが絶叫した。
ルドリフ艦隊本隊はクラー部隊の混乱に巻き込まれていた。
エリオ艦隊の砲撃のタイミングが絶妙だった。
嵩に掛かって追撃しようとした本隊が、足の止まったクラー部隊に突っ込む形になってしまった。
しかも、後方に艦列は伸び切り、アリーフ艦隊の包囲網は完全に崩れてしまった。
これほど無様な事はそうそうないだろう。
エンリックはこうなる前に諫められたかったのを悔いていた。
だが、幸いな事に、まだこちらの方が艦数が上回っている。
攻撃してくるのは寡兵のエリオ艦隊だけで、アリーフ艦隊からはまともな攻撃はなかった。
(最早これまで、艦隊を纏めて撤退すべき!)
完全に頭に血が上っているルドリフに対して、エンリックは冷静にそう結論を下した。
「閣下、まずは混乱を鎮めねばなりません」
エンリックは静かに諭すように言った。
ルドリフは猛将で、大声で叫ぶ事はよくある事だ。
だが、こんな風に頭に血が上ってしまうのは希である。
エリオとの相性が最悪という事なのだろう。
「くっ……」
ルドリフは唇をギュッと噛みしめていた。
唇から血が滲み出そうだった。
「閣下!!」
エンリックは動き出そうとしないルドリフに強めに声を掛けた。
それ程悔しく、気持ちの整理が付かないのだろう……。
とは言え、参謀なので、ここで行動を促さない訳には行かなかった。
「くそぉ!!」
促されたルドリフは天に向かって絶叫した。
びっく!!
周りの者がびっくりするほどの絶叫だった。
まあ、砲撃音の中でもはっきりと聞き取れたので、そりゃ驚くだろう……。
「ふぅ……」
ルドリフは絶叫の後、大きく深呼吸をした。
何とか気持ちの整理を付けたらしい。
「艦同士の距離に注意しながら、敵の射程外へ退避せよ」
ルドリフは至極真っ当な命令を下した。
エンリックはその命令を聞いて、ゆっくりと頷いた。
これでもう大丈夫だと言った感じだった。
「アリーフ艦隊への包囲網を解除。
伸び切った陣形を立て直す。
旗艦を中心に、全艦の集結を図れ」
ルドリフは静かにテキパキと命令を下していった。
それが不気味であり、返って、言い知れない悔しさを表していた。
ステマネは敬礼をすると、すぐに伝令係に指示を飛ばした。
命令を一通り下し終わると、ルドリフは肩を振るわせ、拳をギュッと握り締めていた。




