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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
1.第3次アラリオン海海戦
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その7

「クライセン艦隊、全艦停止しました」

 シャルスがそう報告してきた。


「とりあえず、やれやれですな」

 マイルスターがエリオにそう言った。


 だが、エリオは全く納得していない様子だった。


 自分の進言通りになっているのにも関わらずにだ。


「閣下?」

 マイルスターは思っていた反応と違っていたので、ちょっと不安になった。


「結局、丸投げになるのかよ……」

 エリオはぼやいていた。


 マイルスターとシャルスは互いに顔を見合わせた。


 どうリアクションを取ったらいいのか分からなかったからだ。


 取りなせばいいのか?同意すればいいのか?


「丸投げするのならもっと早く丸投げして欲しかったさ」

 エリオはまだぼやいていた。


 今にもいじけそうだった。


「あのぉ、閣下、公爵閣下に信頼されているからこうなっているのでは?」

 マイルスターはいつもの和やかな口調であるが、腫れ物を触るような感じで明らかに戸惑っていた。


 そう、危険信号を感じ取っていた。


「信頼されていると言うより、暴走しないように首輪を付けられている気分だよ」

 エリオは自分の心情を述べた。


(ああ!)

(成る程!)

 マイルスターとシャルスは口には出さなかったが、全くその通りだと納得した。


 もっと前の段階で任されていたのなら、ホルディム艦隊が何をしようが、エリオは撤退命令を下していただろう。


 エリオにしてみれば、命令を聞かないホルディム艦隊なんてどうでもいいのでかもしれない。


 だが、ホルディム艦隊は勇猛果敢に敵に向かっていったとも解釈する事は可能である。


 そうなると、それを見捨てたクライセン艦隊はあまり良い評判にはならないだろう。


 まあ、それを含めてエリオはそれでいいと思っている節があった。


 それは、はっきり言って困ったものだ。


 貴族というものは、結構評判というものは重要である。


 そんなものは見栄であり、実のないものだとエリオは考えていた。


 だが、とかく戦場での評判というのは、発言力を左右する事になる。


 要するに、評判が政治力として跳ね返ってくる。


 確かに、戦場ではサリオに権限を委ねられた。


 だが、政治には未だ関わっていないエリオがそれが分からないのは無理もない事でもある。


「大体、富裕一族と貧乏一族を同列に並べて同じ事をしろという事が間違っているんだ!」

 エリオのぼやきはまだ続いていた。


 言うまでもないかもしれないが、ここで言う富裕一族はホルディム伯爵家で、貧乏一族はクライセン公爵家である。


 マイルスターとシャルスはぼけらっと見ている他ないようだった。


「お金、商売、貿易などを軽視しているからこういう事になるんだ!」

 エリオのぼやきは怒りに変わってきた。

 

「貿易と言えば、クラセックと何やら話していましたね」

 マイルスターは危険性を感じ取り、エリオの妙な怒りの先を別なものに変えようとした。


 クラセックはエリオと懇意にしている商人だった。


 少なくとも商人本人はそう思っている。


「本当はこの新造艦隊を率いて、東方貿易ルートの開拓に乗り出したかったんだ。

 なのにあのバカオヤジめ!」

 エリオは怒り出していた。


 マイルスターは水と油を間違えて、火に投下してしまったようだ。


 なので、流石のマイルスターも慌て始めていた。


「閣下、現実に戻ってきてください」

 シャルスはニコニコしながらいつものようにあっけらかんと言った。


「!!!」

 その言葉を聞いたマイルスターはギクッとしていた。


 どう見ても、逆効果だと感じたからだ。


 そして、案の定、エリオの目つきが変わった。


「現実に戻らないと、大損害を被りますよ。

 そうすると、クライセン家の財政改善は益々難しいものになるでしょう」

 シャルスは尚もニコニコしながら続けた。


 マイルスターはハラハラ見ていた。


 だが、エリオは目をパチクリさせると、いつもの頼りなさそうな感じに戻っていた。


「そうだな、現実をしっかり見つめないと、大変な事になるな」

 エリオはそう言うと、視線をホルディム艦隊へと向けた。


 マイルスターは音を立てずに息を吐いた。


(それにしても、流石に乳兄弟の間柄だな……)

 マイルスターはシャルスを見直していた。


「ホルディム艦隊は勝てそうですか?」

 シャルスは現実に戻ってきたエリオに単刀直入に聞いてみた。


「そう願いたいが、どうかな……」

 エリオはお茶を濁すようにそう答えた。


 まあ、有り体に言ってしまえば、エリオはホルディム艦隊の実力をかなり低く見ていた。


 したがって、次の手を考えなくてはならなかった。


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