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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
5.スワン島沖海戦

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その10

「エリオ艦隊、クラー部隊を突破、こちらに向かってきます!」

 ステマネが報告してきた。


「無理な追撃が徒になりましたね……」

 エンリックはそう反応した。


「まあ、そうなんだが、こちらに向かってくると言うのなら、有り難い」

 ルドリフは動じないと言うより、よりポジティブな感じで、上手く行ったと言った感じだった。


「確かに」

 エンリックは司令官の意見に賛同した。


「エリオ艦隊が突撃してくる地点は、攻撃を受けると当時に包囲網を開け!

 そこから、エリオ艦隊も包囲網に取り込むぞ!」

 ルドリフはそう命令を下した。


 この戦法は、ある意味、第3次アラリオン海戦の意趣返しでもあった。


「閣下、クラー部隊が遅れています。

 それでは、穴から逃げられる恐れがあります」

 エンリックはルドリフの命令の不備を指摘した。


「穴から逃げようとしたら、包囲網をシフトして、逃がさないようにする。

 そして、その穴をクラー部隊で塞いだ方が、連携は取りやすいだろう」

 ルドリフは自分の命令の意図を説明した。


「成る程」

 エンリックはルドリフの命令を理解し、それ以上は何も言わなかった。


「エリオ艦隊、進路変更、南西へ向かう模様」

 ステマネが新たな報告をしてきた。


「なっ……」

 予想していなかった事に、ルドリフは絶句した。


「閣下、まさか、デウェルに逃げ込むのでは?」

 エンリックは可能性の一つを指摘した。


「くっ……」

 ルドリフはエンリックの指摘を聞いて、頭に血が上ってきていた。


 またしても、エリオが何かやらかす気でいる事を察したからだ。


 勿論、エリオには煽っているつもりはない。


 ないのだが、ルドリフは、エリオが煽っていると感じていた。


 エリオとっては、ただ現状を打開しようとしているだけだった。


 それが煽っているように見られるのは、エリオはどんな星の下に生まれてきたのだろうか?


 とは言え、エリオはエリオで、ルドリフが動くと踏んでこういう行動をしているのは間違いなかった。


 あ、と言う事は、結果的に煽っている事になるねぇ……。


「エリオ艦隊、減速している模様」

 ステマネがエリオの駆け引きの様子を伝えてきた。


「小癪な!

 各個撃破するつもりか!!」

 ルドリフは更にヒートアップした。


 ルドリフは明らかに冷静さを失ってはいたが、辛うじて踏み止まっていた。


 下手に動けば、優勢が覆される恐れがあったからだ。


 まあ、負けはしないが、大魚は逸する形にはなるだろう。


 ここはクラー部隊の働きに期待する他なかった。


「アリーフ艦隊旗艦が被弾していた模様。

 その為、敵が混乱している模様」

 ステマネが意外な報告をしてきた。


 この思わぬ報告がルドリフの踏み止まっていた決断を後押しした事は想像に難くなかった。


「アリーフ艦隊の完全包囲網を半包囲網に変更。

 エリオ艦隊を追うぞ」

 ルドリフは即座にそう命令を下した。


「閣下、それでは艦列が伸びきってしまいます」

 エンリックが慌てて指摘した。


 エリオが絡むとども向きになる気がしたからだった。


「アリーフ艦隊が混乱している今がチャンスだ。

 それに、このままではクラー部隊が各個撃破される恐れがある」

 ルドリフはエンリックの指摘にそう反論した。


「それならば、バルディオン王国艦隊に参戦要請をなさるのがよろしいかと思います」

 エンリックはルドリフの反論に対して、別の案を提案した。


 エンリックは、このまま推移するはまずいと感じていたから、あらゆる手を打ちたかった。


 ルドリフ艦隊が移動した位置をサラサ艦隊がカバーすれば、包囲網を維持したまま、エリオ艦隊に圧力を掛けられる。


 そう考えると、エンリックの提案の方がより有効なものであった。


「いや、参戦要請はまずい……」

 ルドリフには珍しくお茶を濁すように言った。


「……」

 エンリックは今一納得は出来ないでいた。


 だが、これ以上は指揮にも影響する懸念があるので、それ以上は何も言わなかった。


 - 艦隊配置 -

  SR

     RH

     AHRH

    RHRH

    RH  EC K


 EC:エリオ艦隊、AH:アリーフ艦隊

 SR:サラサ艦隊、RH:ルドリフ艦隊、K:クラー部隊

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