その8
「反転してきましたね……」
バンデリックが、エリオ艦隊の動きに対して、驚き、呆れていた。
「王太女旗を掲げた以上、こうなるわね」
サラサの方は、そう言うとニヤリとした。
だが、何故か、すぐに不機嫌そうになった。
不機嫌になったのは、もしかしたら同属嫌悪というものかも知れない。
「まあ、艦列が乱れていたのでチャンスと言えば、チャンスなのですが……。
王太女を乗せているので、確実に逃げ切るのではと思ってましたが……」
バンデリックはそう感想を述べた。
ただ、何となく、同情しているような表情だった。
まあ、バンデリックにはエリオの心情がよく分かってからだ。
完全に尻を叩かれていると。
「主体性がないって事ね」
サラサはエリオ艦隊の行動をバッサリと切り捨てた。
ただ、残念な事に、これは反論しようのない事実だった。
「……」
バンデリックは無言だった。
何か言うと、エリオに対しての同情を口にしそうだったからだ。
エリオがやむにやまれずといった感じで命令を下した時の心情が、時を経る毎に更によく分かる気がしたからだ。
そう、お互い苦労しますねと……。
「艦隊をハイゼル艦隊に少し近付けなさい」
サラサはそう命令を下した。
これは、すぐにでも参戦できる体制を整えろという意味だった。
とは言え、この時のサラサは参戦確率をどのくらい高く思っていたかは疑問が残る。
むしろ、良い位置で戦闘を観察したいという心情ではなかったのかと、後にバンデリックは思った。




