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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
5.スワン島沖海戦

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その2

 エリオ達はすぐに、法王への暇乞いに向かった。


 朝のお勤め前の突然の訪問に、法王は驚いていたが、事態の急変を察して快く応対してくれた。


 そして、無事に事が収まるように、お祈りを捧げてくれた。


 それに感謝した後、エリオ達はすぐに港へと向かった。


 艦隊から随伴した人物は例外なく、馬を使った。


 運動音痴であるエリオだが、馬だけは人並みに乗りこなせる。


 まあ、はっきり言ってしまえば、馬任せでただ乗っているだけなのだが……。


 その為か、馬にはよく好かれ、気難しいとされる馬でも難なく乗れる。


 人からは結構攻撃されるのに……。


 それと、蛇足かも知れないが、エリオ以外の人間は触れるまでもなく、乗馬には問題なかった。


 一行は、日が昇り始めた道を一気に駆け抜けて、港へと辿り着いた。


「お帰りなさいませ」

 マイルスターは敬礼をして一行を出迎えた。


「現状報告!」

 エリオは馬を下りながらそう叫んでいた。


 その声を聞いた下馬中のリ・リラはいつもとは明らかに違うエリオに驚いていた。


「アリーフ艦隊とハイゼル艦隊は既に戦闘状態に突入したものと思われます」

 返礼を受けたマイルスターは敬礼を解きながらそう言った。


「まずいな……」

 エリオはしまったと言う表情を浮かべながらそう言った。


 そして、艦隊の隣に停泊している商船を見た。


 献上の品を運搬してきた商人クラセックの船だった。


「エリオ、わたくしは残りませんからね」

 リ・リラはすぐにエリオが何を考えていたのか分かったので、先回りした。


「……」

 エリオはいつの間にか真横に立っていたリ・リラの方を見て、困った顔をした。


 だが、何も言わなかった。


 と言うより、説得はもう諦めていた。


 それより、今は一刻の猶予もない状態だった。


 議論している場合ではなかった。


「閣下、全艦出港準備出来ています」

 マイルスターは2人の微妙な状況に拘わらず、いつもと変わらずに、和やかに現状報告をした。


 流石である。


 こうでないと、エリオの参謀は務まらないのだろう。


「了解した。

 直ちに出港しよう」

 エリオはそう言うと、タラップを登り始めた。


 それに遅れまいと、リ・リラはエリオの真後ろをピッタリと付いていった。


 その態度は明らかに置いて行かれない為のものだった。


(やりにくい……)

 真後ろにピッタリとひっつく監視の目をエリオは感じながらもなるべく反応しないようにした。


 そんな状況下、エリオ達一行が乗艦すると、タラップが引き上げられ、完全に出港可能状態になった。


「全艦……」

とエリオは号令を掛けようとしたが、

「ちょっと待って」

とリ・リラが制した。


 リ・リラの言葉に、彼女以外全員固まったのは言うまでもなかった。


 この期に及んで、待ったはないでしょうに!


「王太女旗を掲揚しなさい。

 コソコソするのは良くないわ!」

 リ・リラは微笑みながらそう言った。


 だが、その微笑みは命令拒否を許さないと言った意味だった。


(何も悪目立ちしなくても……)

 エリオは軽い目眩を感じた。


 そして、当然ながら言い返す事は出来なかった。


「それと……」

 リ・リラは更に何かを言おうとしていた。


(まだ何かあるのですか!!)

 エリオはリ・リラの言葉が終わる前にそう反応した。


 口には出せないのだが……。


「一直線に逃げるのは禁止。

 必ずアリーフ艦隊の救援を行いなさい。

 これは大事な事よ」

 リ・リラは先程の微笑みから一転して、真面目な顔つきでそう言った。


(それ程、アリーフ子爵が大事なのか……)

 エリオの心中は複雑だった。


「いい?エリオ」

 すぐに返事をしないエリオを、リ・リラは念を押すように言った。


「了解しました、殿下」

 エリオは慌ててそう言った。


 もう、こうなったら否も応もなかった。


「よろしい」

 リ・リラは満足げに頷くと、エリオに微笑みかけた。


 それを見たエリオは一瞬ドキッとした。


 何の打算もない天使の笑顔に見えたからだ。


 とは言っても、見とれている場合ではなかった。


「王太女旗、掲揚。

 全艦、出港」

 エリオは今度こそ、命令を下した。


 それを聞いたシャルスは敬礼をして、伝令係に指示を出した。


 リ・リラの方はエリオの命令を聞いて、安心した。


 そして、出港の様子を特等席で見ようと、リーメイと共に、艦首へと向かった。


「閣下、クラセックの事はどうなさいます?」

 マイルスターが商船の方を見ながらそう聞いてきた。


「放っとけ」

 エリオは短くそう答えただけだった。


「はぁ?」

 マイルスターはエリオの素っ気なさに唖然としていた。


「あいつは献上の品の輸送がついでで、商売に来たんだから、自分で何とかするさ」

 エリオはいつにない不適・・な笑みを浮かべた。


 そう相応しくない笑みだった。


(完全な八つ当たりだな……)

 流石のマイルスターも呆れた。


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