表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
4.王太女リ・リラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/143

その6

 儀式はその後、滞る事なく、終わった。


 心配された襲撃もなかった。


(まあ、こういった儀式を狙ってくるのは国際的に非難の的になるから、ないとは思っていたが……)

 エリオはそう思いながらも、やはりホッとしていた。


 代わりに刺されたからといって、リ・リラが助かるとは限らないからだ。


 リ・リラとエリオは、宿泊施設として宛がわれているリ・リラの部屋へと入っていった。


 迎えてくれた侍女のリーメイは、2人が中に入ると、すぐに扉を閉じた。


 もう安心だった。


 この部屋の周りには、エリオが信頼する部下達が固めており、大概の事態には対処が可能という自信を持っていた。


「はぁ、ぃ?」

 エリオは扉の前で溜息をつこうとしたが、つけずに飲み込む羽目になった。


 ポイ!!


 リ・リラはティアラを投げ捨てていた。


「いっ!?」

 エリオはびっくりして空中に投げ捨てられたティアラの行方を追っていた。


 ティアラは、言うまでもなく、儀式で最も重要な場面を演出したものだった。


 リ・リラは何も言わなかったが、頭に乗せていると重くて邪魔だと言う事で、一番最初に投げ捨てたのだろうとエリオには理解した。


 とは言え、そのまま放っておく訳にも行かずに、落ちてくるティアラをエリオは掴んだ。


(俺にしてはよく捕れたな……)

 エリオは自分で自分を褒めてあげたい気分になっていた。


 まあ、言うまでもない事なのかもしれないが、こう言った場面で物を上手くキャッチできた記憶は全くなかったからだ。


 エリオは想像が出来ない程の運動音痴である。


「ナイスキャッチ!!」

 リ・リラは飛びっきりの笑顔でそう言った。


 そして、リ・リラは上気した表情を浮かべていた。


「……」

 エリオはなんと答えていいか分からず、その場で立ち尽くしていた。


 ティアラを手にしながら、間抜け顔で……。


(何か、変なテンションになっているな……)

 エリオは嫌な予感しかしなかった。


 この変なテンションは儀式を完璧にやりきったという事から来ているものではなかった。


 むしろ、「エリオに完全勝利!!!」と言った感じをリ・リラは強く強く持っていた。


 なんか、リ・リラって、とっても残念な娘に見えてしまう場面だった。


「暑くてたまらないわね……」

 リ・リラはそう言うと、ケープを脱ぎ捨てていった。


 まあ、そうなんだろうけど、エリオは困って固まっていた。


 だって、キャミソールドレスが露わになり、同時に両肩が露出したからだ。


 しかも、小悪魔的な微笑みまで浮かべている。


 エリオの反応を楽しんでいるのは間違いなかった。


 まあ、完全勝利なので仕方がないと言った所か……。


「殿下……」

とリーメイが注意しようとしたが、リ・リラはスカートの裾を持ち上げて、両足を交互に振っていた。


 ぴょーん、ぴょーん。


 「明日天気になあれ」的に、靴を脱ぎ捨てていた。


 エリオは呆れながらも、歩きにくいから脱ぎ捨てたのだろうと感じた。


(まあ、開放感もあるしね……)


 とは言え、エリオは益々固まっていった。


 まあ、普段のリ・リラだったら絶対にしない事ばかりなのだが、この時ばかりは妙なテンションになっていた。


(いや、でも、なんか……、懐かしくもあるのかな?)

 エリオは目の前の情景を理解しようと努めていた。


 リ・リラは再び歩き出して、ソファに向かった。


 リ・リラはソファの前まで来ると、くるっと回ってエリオの方を向いた。


 そして、身を投げ出すように、ソファに寝そべった。


 王族としては、かなり行儀が悪い行いだった。


「リ・リラ様、はしたのう、御座いますよ」

 リーメイはそう言いながら、リ・リラが投げ捨てていったものを手際よくまとめていっていた。


 エリオはエリオでもう限界だった。


 キャミソールドレスなので、胸元がかなり開いていた。


 しかも、ソファに寝転ぶ時に、リ・リラの豊かな胸は多少なりとも揺れていた。


 注意されたリ・リラはエリオを一瞥した。


 明らかにエリオの存在を意識しているが、いない振りをしていた。


 固まっているエリオを確認すると、興味なさそうに視線を外した。


 健康的な男子であれば、劣情を催す場面である。


 いや、劣情まみれになる場面だろう。


 だが、エリオはこういった事にかなりウブな面があった。


 エリオは完全に思考回路が麻痺してしまい、劣情を催すとかそう言うレベルではなかった。


 余計なお世話だが、ある意味、男として、それはどうなのかなと思われる状況であった。


「面倒な儀式でとても疲れたから、今は勘弁してね」

 リ・リラはこの部屋にはリーメイと2人きりのような感じでそう言った。


 この一言でエリオはの思考回路が復活した。


(嘘を仰い……。

 ノリノリで、儀式に臨んでいたでしょうに!!)

 エリオは心の中でリ・リラにツッコミを入れていた。


 こっちの方に復活してしまうのもどうかと思うが、まあ、まだ顔を真っ赤にしていたし、そんなものか……。


 とは言え、リ・リラはリ・リラで体勢を変えようとしなかったし、胸元を隠そうともしていなかった。


「王太女にお成り遊ばれたのですから、それなりの品位をお保ちになさって下さいませ」

 リーメイはリ・リラに苦言を言いながら、まとめたものを棚などに次々に戻していた。


 いつもながらに、余りにもいい手際に、エリオは感心していた。


「分かっているわよ。

 人前ではちゃんとするから、今は、許してね」

 リ・リラはそう言うと、右腕で目を覆った。


 本人が言っているように、本当に疲れているようだ。


 そんなリ・リラを見て、リーメイはやれやれと言った感じの視線を送った。


 そして、エリオの方を見て、苦笑いした。


 エリオはそれを見て、ちょっと焦った。


 と言うのは、注意してくれと合図を送られたと思ったからだ。


 まあ、当然の事ながら、そんな事できる筈もないどころか、思ってもみたい事だった。


 注意した所で、エリオの注意を聞く訳はないし、その後の展開を考えると、空恐ろしささえ感じられた。


 ブルブル……。


 ただ、リーメイはエリオに注意して欲しかった訳ではなかった。


 しょうがないですねと言った感じでエリオに同意を求めただけだった。


 そんなリーメイの気持ちを知らずに、エリオは決心した。


「リ・リラ様、私はこれで失礼させて頂きます。

 何かありましたら、お呼び下さい」

 エリオは面倒事に巻き込まれる前に退散を決め込んだ。


「……」

 リ・リラからの返答はなかった。


 あまりの急変で言葉が出てこなかった。


 とは言え、返答があろうがなかろうが、エリオはすぐに退出することを心に固く誓っていた。


 なので、一礼すると、踵を返して、慌てて扉を開けた。


(逃げ切ってしまえば、こっちのものだ!!)

 ちょっと卑屈だが、エリオは扉を開けると、すぐに部屋の外へと出た。


 まあ、一種の恐怖に駆られていることだから、多少卑屈になるのも仕方がないだろう。


(やれやれ、公爵閣下……、もうちょっとそばにいてもいいのでは?)

 リーメイは呆れながらも、その事は口には出さなかった。


 リ・リラは、エリオに甘えていた事をリーメイは見抜いていた。


 なので、放っておいた。


 だが、エリオにとっては刺激が強すぎたようだ。


 リ・リラの方は相変わらずソファに寝そべっていた。


(儀式の方は上手くいったけど……。

 本当に、疲れたわね……)

 リ・リラはそう思った後、しばらく何も考えなかった。


 ……。


 リーメイも話し掛けなかったので、しばらく沈黙が続いた。


 そして、リ・リラは急にガバッと起きた。


「わたくし……」

 リ・リラは今までの自分の態度が急に恥ずかしくなった。


 極度の緊張から解放されて、身内だけになっていたのをいい事に、油断していた。


「!!!」

 リーメイは気付かれないように、リ・リラの死角に回り込み、笑いを堪えていた。


(明日会ったら、この事を忘れさせないと!!!)

 リ・リラは顔を真っ赤にして、正に穴があったら入りたいといった感じだった。


 その時、エリオは持ってきたしまったティアラを手に、廊下で困り果てていたのは言うまでもなかった。


(これを、返さないといけないのだけど、今、戻ったら、流石に、間抜けだよな……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ