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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
4.王太女リ・リラ

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その3

 スワンワリア法国に到着して、3日後、リ・リラの立太子の礼が行われようとしていた。


 宛がわれた部屋で、リ・リラはリーメイに手伝って貰いながら、ドレスに着付けをしていた。


「如何でしょうか?」

 リ・リラの着付けを手伝っていたリーメイが一歩下がって言った。


 そう言われると、リ・リラは鏡の前でゆっくりと回ってみた。


(おかしい所はないわよね……)

 リ・リラはいつもとは違う自分が鏡に映し出されていたので、戸惑っていた。


「とてもお綺麗ですが、気になる所でもおありでしょうか?」

 リーメイはリ・リラの様子を見て、柔やかに聞いてきた。


「うーん……」

 リ・リラは何とも言い難い表情になっていた。


 パーティーなどでドレスは着慣れているものの、いつもとは何か違うような気がする。


 ただ、それは悪い意味ではなく、遙かにいい意味でだった。


 それ故に、戸惑っていた。


「公爵閣下は、意外とセンスがよろしいのですね」

 リーメイはリ・リラの心を見透かすように微笑んでいた。


「いっ……」

 リ・リラは絶句した。


 何か、言い当てられたようで、先程まで着心地が良かったドレスも何だか急に腹立たしいものになったような気がした。


 何故か負けた気分になったからだ。


 そう、ライバルに負けたと言った気分だった。


 こう感じてしまう所は、リ・リラの残念な所である。


 この物語の登場人物は、どうも残念な者ばかりかも知れない。


「そう言えば、アイツはちゃんとしてくるのかしら?」

 リ・リラは急に話題を変えた。


 気まずいのを通り越して、耐えられなかったからだ。


「まあ、シャルスお兄様がしっかり監視なさっているので、大丈夫かと思います」

 リーメイは結構際どい事をあっさりと言ってのけた。


 また、こちらの世界では、従兄妹同士はほぼ兄妹同士と同じような関係なので、このような呼び方になる。


「ええっと……」

 リ・リラは2人の事を思い浮かべると、とてもそう思えなかった。


(大丈夫かしら、あんな冴えないヤツがエスコート役で……)

 リ・リラは内心心配になってきた。


 式には、教会のお歴々を始め、スワンワリア法国に在住している各国大使が参列する予定である。


 そう、立派な外交儀式なのである。


 故に、諸外国にみっともない姿を晒す訳にはいかなかった。


 自分の沽券に関わる事であるし、今後の外交にも影響するからだ。


「殿下、クライセン公エリオ閣下が参りました」

 部屋の外からそう声が掛かった。


(タイミングがいいのか、悪いのか……)

 リ・リラはエリオの事を考えていたので、ちょっと呆れていた。


「どうぞ、入りなさい」

 リ・リラは呆れながらも外にそう声を掛けた。


 すると、ドアが開かれ、エリオがシャルスを伴って部屋に入ってきた。


 2人が部屋に入ると、すぐにドアが閉められた。


 ……。


 リ・リラとエリオはお互いの姿を見つめ合いながら、しばらく声が出なかった。


 呆然と言うより、唖然?いや、意外という言葉が当てはまった。


 あ、これは主にリ・リラの方から見た場合かも知れないが……。


「おっほん」

「おっほん」

 シャルスとリーメイがハモるように、咳払いをした。


 勿論、2人に会話をするように促すものだった。


「ご機嫌麗しく存じます、殿下」

 エリオはいつもの挨拶をして、一礼をした。


 ……。


 エリオの一礼後、再び沈黙してしまった。


 どう見ても、他の3人はその次の言葉を待っているようだった。


 だが、当のエリオは当惑していた。


 堪らず、シャルスがエリオの背中を叩いた。


 この辺は、乳兄弟の間柄ならではと言った感じだった。


 リーメイがナイスと言った感じで、微笑みながら頷いていた。


 ただ、本当は蹴りを入れてやりたかったが、流石にそれは控えた。


 リーメイは、普段お淑やかにしているが、子供の頃からこの4人のまとめ役であった。


 まあ、それはともかくとして、空気読まないシャルスでさえ、次に何を言うべきか気付いているのに、当惑しているエリオには呆れる。


「あ、とても、お似合いですね」

 エリオはようやくリ・リラを褒めた。


 遅れたのは、照れの影響があったのは否定しようがなかった。


「え、あ、ありがとう……」

 リ・リラは嬉しくも恥ずかしくもあった。


(あれ?でも、これって、あんたが選んだのよね……。

 それで、もし似合わなかったら、どうするつもりだったの……)

 リ・リラはそう思うと、上がったテンションが急に下がるのを感じた。


 正論なのだが、やはり、この辺がちょっとリ・リラの残念な所かも知れない。


 もっと、素直に喜びましょう!


 ……。


 そして、また気まずい沈黙。


「おっほん」

 今度はリーメイがリ・リラに促すように、咳払いをした。


「えっ、ああ、エリオ、あなたも似合って……、いるわねぇ……」

 リ・リラは形式通りにエリオの姿を褒めようと口にしたが、まじまじと見つめる内に、あれ?となった。


 実は、リ・リラは自分の姿に対して、エリオがどんな反応を示すか分からなかったので、ドキドキしながら俯き加減だった。


 なので、エリオの姿をまじまじ見たのはこの時初めてだった。


 しっかりしすぎている所ばかり目に付くが、意外と可愛い面を持つリ・リラだった。


 まじまじと見つめる内に、リ・リラは驚いていた。


 濃紺を基調とした礼服、白い手袋、そして、マントをしていた。


 また、リーラン王国である黄緑のラインの入ったたすき掛け、マントの裏地も同じ色だった。


 とは言え、リ・リラのドレスはどちらかと言うと、白緑と言った感じの薄い黄緑で、エリオの方は松葉色と言った感じの落ち付いた色だった。


 まあ、それはともかく、いつもとは明らかに違うエリオにリ・リラはしばらく見とれてしまった。


 ……。


 またまた、沈黙が流れた。


 そんな2人を見ながら、リーメイとシャルスは満足そうに自分の手柄を誇るようにウィンクし合っていた。


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