その7
翌朝、サラサはすっきりした表情を浮かべていた。
そんなサラサを見て、オーマは別れの挨拶だけを済ますと、速やかに帰還の途に就いた。
多分、安心したのだろう。
サラサはそれを見送ると、
「よし、やるわよ!!」
とワクワク顔で叫んだ。
未知なる怪物のとの戦いに胸躍ると言った感じだった。
うぉー!!
艦の各所でサラサに呼応するように、雄叫びが上がった。
「あ、ちょっと待った……」
サラサは一瞬にして冷静に考え込んだ。
水兵達も大きく開けた口をゆっくりと閉じながら、突き上げた拳を所在なさげにゆっくりと元に戻した。
……。
先程の歓声が、一気に沈黙に変わった。
「どうやら、今回の敵は一筋縄ではいかないみたい。
だから、慎重の上に慎重を重ねて、行くわよ」
サラサはゆっくりと言った。
……。
水兵達はお互いの顔を見合わせながら戸惑っていた。
「正直言って、あたしはアイツを思いっ切り叩きのめしてやりたい!」
サラサは先程とは打って変わって、いつもの強気のサラサに戻っていた。
エリオは無条件に喧嘩を吹っかけられやすい体質でもあるらしい。
当代一の提督と称されるオーマから異才と称されるサラサも、その例外ではないらしい。
まあ、本人を目の前にすれば、仕方がない気もしない訳ではない。
「だけど、今回は我慢する!」
サラサは自分に言い聞かせるように、そう叫んだ。
うぉー!!
水兵達はよく分からないでいたが、再び雄叫びを上げて、その場を盛り上げた。
サラサは艦隊指揮官であると共に、水兵達のアイドルでもあったから当然の行為だった。
「バンデリック!」
盛り上がりを見せる中、サラサが隣にいるバンデリックの名前を叫んだ。
……。
一瞬にして、静かになる雰囲気の中、呼ばれたバンデリックはとても嫌な予感した。
そして、バンデリックは、ギクシャクしながら、引きつった笑顔で、サラサに向き直った。
サラサの満面の笑みが怖かった。
……。
一瞬の妙な沈黙。
「如何なされました、閣下……」
バンデリックは、勇気を振り絞るように、言う他なかった。
完全に追い詰められていた。
「あたしの頭に血が上っているようだったら、全力で止めなさい」
サラサはバンデリックに頼み事をした。
それは……、ま・さ・し・く……、死亡フラグだった。
そう、そんな事が出来るはずない。
仮に出来たら、いや、そうしようなら、確実に命がなくなっているだろう。
サラサは依然として満面の笑みを浮かべていた。
「はい……」
バンデリックはもう、そう答えるしかなかった。
返事を聞いたサラサは満足そうに頷いた。
(遺書……、書いておこうかな……)
こうして、バンデリックは止めても止めなくても、デッドエンドフラグが立ったのだった。




