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その3

 ゆらゆら……。


 艦隊がゆっくりと揺られていた。


 オーマは麾下の総旗艦艦隊を王都キンダザゥから出撃させていた。


 王都はキャストフォード湾の奥側に位置しており、艦隊はその出口付近まで進出していた。


 万が一の事態に備えたパトロール行動だった。


 艦隊を出口付近で停止させた直後、様々な報告が入ってきていた。


「第2艦隊は予定通り出港。

 スワン島沖に向かったの事です」

 ヘンデリックは報告を読み上げるように言った。


「……」

 オーマは無言で頷くだけだった。


「特に問題はなさそうですな」

 対してヤーデンは安心したように言った。


 2人の対称的な態度にヘンデリックは少し怪訝そうな表情をした。


 正確には、何か引っ掛かるものがあるようだった。


「どうした?ヘンデリック。

 らしくないな……」

 オーマは気になって質問してみた。


「あ、いや、私事になるやも知れません……」

 ヘンデリックは遠慮勝ちにそう言った。


「まあ、言ってみるが良い。

 私事かどうかは、閣下がお決めになる」

 ヤーデンはヘンデリックに話すように促した。


「私の末弟のことなのですが……」

 ヘンデリックは依然として言いにくそうに話し始めた。


 末弟とはバンデリックのことであり、ヘンデリックは3兄弟の長兄であった。


 長弟はリンデリックと言い、どう言う縁か、陸軍と海軍の連絡係を務めていた。


 ま、その話はいつかするかも知れないが、ここでは置いておこう。


「あんなんでサラサ様の副官が務まるのでしょうか?」

 ヘンデリックは身内の恥と思いながらも、海軍全体に関わる事だと思って、思い切って質問した。


 ……。


 一瞬、沈黙の時が現れた。


 まあ、オーマもヤーデンも思わぬ事を言われたからだろう。


 ぶっはははっ……。


 沈黙の後には、2人の長い長い笑い声が響き渡っていた。


「……」

 今度は思わぬ光景にヘンデリックが絶句していた。


「務まるどころか、彼以外、サラサの副官を務められる人物はそうそういまい」

 オーマは一通り笑った後、まだ笑い足りないのか、笑い交じりでそう言った。


「……」

 ヘンデリックの方はそれを冗談交じりで言われている気がしていて、納得していない様子だった。


 ヘンデリック自身、あまり、バンデリックの能力を評価していないようだった。


「ヘンデリックよ、人には適材適所とか、相性とかあるのさ」

 オーマは今度は真面目な顔をして言った。


「……」

 ヘンデリックはそれでも納得し難いと言った表情だった。


「身内びいきに聞こえるかも知れないが、我が娘サラサは異才を持つ人物である」

 オーマはしみじみと話し始めた。


「それは私も同意します」

 ヘンデリックは今度は納得したようだった。


「アレの才能を大いに発揮させてくれる人物は、訳の分からない事を言っても受け止められる能力と、発想を切り替えてくれる発言が必要だ。

 その条件をバンデリックは見事に満たしている」

 オーマはとくとくと説明した。


 まあ、有り体に言い換えれば、ワガママ言い放題、やりたい放題やられても、動じない鈍感力である。


 異才と持つとは言え、サラサも完璧な人間ではない。


 結構ギリギリの所で、バランスを保っているのかも知れない。


 それが、バンデリックへの態度として表れていた。


 少なくとも、オーマはそう思っていた。


「うーん……、あの間が抜けたバンデリックに務まっているのでしょうか?」

 ヘンデリックは俄には信じられないようだった。


「十分すぎるほど、務まっているさ」

 オーマは明快にそう言ってのけた。


「……」

 ヘンデリックは何も言わずに今度は考え込んでしまった。


 納得できたような、出来ないような感じでいた。


「ヘンデリックよ、一面から人を見るものではない」

 今度はヤーデンが口を開いた。


 ヤーデンもまたバンデリックを評価しているようだった。


「違う方向から見ると、バンデリックの良い所が見えてくるというものだ」

 ヤーデンはそう付け加えた。


「確かにそうですね……」

 ヘンデリックはバンデリックの能力を疑っているが、人柄は大いに評価していた。


「それに、サラサ様に参謀役を付けないのはバンデリックの存在が大きい」

 ヤーデンは更に説明を付け加えた。


「どういう事です?」

 ヘンデリックはヤーデンの思わぬ言葉に思わず質問した。


「閣下の言うとおり、サラサ様の才能は異才だ。

 それ故に、下手な参謀を付けられないのだ。

 まあ、尤も、バンデリックがサラサ様の才能を引き出してくれている以上、今更付ける必要もないのだが……」

 ヤーデンはニッコリとしながらそう答えた。


 隣ではオーマは頷いていた。


 解説してしまうと、野暮になるが、サラサにとっては、参謀の意見より、息抜きの方が遙かに役に立つという事だろう。


「そうですか、末弟バンデリックをそこまで評価して下さったのですか……。

 感謝に絶えません……」

 ヘンデリックは感激してしまっていた。


「いやいや、感謝するのは私の方だよ」

 オーマは本当に感謝していた。


 ほのぼの……。


 この話が出来て、良かったと言った3人の雰囲気を打ち破るように、次の報告が入った。


「閣下、リーラン王国艦隊に、総旗艦艦隊を確認。

 クライセン公エリオが出撃してきたとの事です」

 ヘンデリックはその報告をオーマ達にした。


 ずっしぃーん!!!


 場の空気が一気に重くなった。


 第3次アラリオン海海戦で危機的な状況に追い込まれたトラウマが蘇った感じだった。


 オーマ艦隊は、最小限の損害で済んでいた。


 そして、海戦の結果としては、ウサス・バルディオン連合艦隊がやや勝利した感がある。


 だが、オーマ達には、エリオの掌で踊らされていたという印象しかなかった。


 そう、ホルディム艦隊の自滅的な行動がなければ、ウサス帝国艦隊はおろか、自分達も壊滅的被害を被っていたのは間違いなかったと言う認識があった。


「艦隊はそのままこの海域に待機。

 指揮を艦隊副司令のバステスに任せる。

 本艦は直ちに、スワン島沖に向かうぞ」

 オーマは即決した。


「閣下、何も単艦で向かわなくても、伝令すればいいのでは?」

 ヤーデンは驚きながら止めた。


 とは言え、これは本気で止めているとは思えなかった。


「万が一の事を考えると、直接言った方がいいと思っているだろ?」

 オーマはヤーデンの心を見破っているかのように言った。


 万が一の事態とは、伝令で上手く伝わらなかった時の場合だった。


 その場合、最悪の場合、サラサを失う事になるという危惧がそこにはあった。


 それだけは絶対に避けなくてはならなかった。


「了解致しました」

 ヤーデンは敬礼して、すぐにオーマの言葉を受け入れた。


 それを受けて、ヘンデリックは伝令係に指示を出した。


(3年間、穏やかだったが、風雲急を告げるとはこの事かも知れない……)

 オーマは逸る気持ちと、不安な気持ちを合わさったような感じでいた。


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