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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
2.エリオ・クライセン

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その8

 翌日、アリーフ艦隊を沖合に残して、エリオ艦隊はスワン島の港町デウェルに入港しようとしていた。


 スワン島周辺には、各国の艦隊が入り乱れていた。


「閣下、ウサス帝国艦隊を確認。

 数は、ええっと、31隻。

 かなりの数を繰り出してきていますね」

 シャルスは望遠鏡を覗き込みながら実況した。


「まあ、それはいるよね」

 エリオはシャルスに素っ気なくそう答えた。


 エリオの言う通り、敵国であるリーラン王国が艦隊を出してきたのだから、そちらも出すのが当然といった感じだ。


 エリオ艦隊は5隻、アリーフ艦隊は20隻、合計25隻。


 数の上では不利だった。


 とは言え、今回はリ・リラの立太子の礼の為に訪れた訳なので、ちょっかいを出してくるとは常識的には考えられなかった。


 また、宗教儀式も含まれているので、スワン教徒としては教会の面目を潰す真似はしないだろうと思われた。


 それに今回、各国が艦隊を繰り出してきているのは、警護と親善が目的である。


 なので、あくまでも普通や常識の範囲内なら、大丈夫な筈なのだが……。


「ああ、その隣にはバルディオン王国艦隊がいますね。

 数は……、12隻。

 意外に少ないですね」

 シャルスの実況は尚も続いた。


 バルディオン王国はウサス帝国と同盟関係にあったので、仕方がなく艦隊を派遣してきたと言った感じか?


 ただ、スワン法国とは海を隔ててはいるが隣同士になるので、派遣せざるを得ない。


 余談だが、王国の東隣にウサス帝国があった。


 エリオはシャルスに再び生返事をしようとして口を開いたが、言葉が出なかった。


(えっ!?)

 エリオは見詰めた先を凝視していた。


 白い髪、いや、銀髪だろうか?


 そして、褐色、もしくは、赤い目?


 いや、どちらでもなく、その中間、赤銅色と言った感じの目だった。


 その人物とはそれなりの距離があったが、エリオもその人物も船乗りなので目が非常にいい。


 2人は目が合い、お互いを認識し合っていた。


 微動だにしないエリオをマイルスターは訝しがった。


「どうかしましたか?閣下」

 マイルスターはそう声を掛けた。


「……」

 エリオは声を掛けられたのに気が付かなかった。


 視線はずっと固定されたままだった。


 このようなエリオを初めて見たので、マイルスターは驚いていた。


 驚いてはいたが、エリオの視線の先に目をやった。


 すると、そこにはエリオと同じ歳ぐらいの女の子がいた。


 エリオはその女の子を凝視していた。


 美少女だったが、それに目を奪われていた訳ではなかった。


 いや、まあ、それは嘘で、目を奪われたのは美少女だっただけではなかったという言い訳の方が正しいだろう、だぶん……。


 意外に華奢な体をしていて、発育のいいリ・リラとは対照的だった。


 だが、力強いオーラを放っており、それ故に見逃せなかった。


 リ・リラも王族のオーラを持っていたので、オーラに対しての耐性はエリオ自身はあると思っていた。


 だが、羨望と共に恐怖さえ覚えるような感覚に囚われていた。


「バルディオン王国第1艦隊ではなく、第2艦隊を派遣してきたようですね」

 シャルスが解説を付け加えた。


「と言う事は、指揮官はワタトラ伯爵。

 本名はサラサ・ルディラン。

 ルディラン侯爵家の嫡子ですね」

 マイルスターはエリオと同じ方向を眺めながら更にそう解説した。


「……」

 エリオは無言でまだサラサを見続けていた。


 サラサの方もエリオから視線を外さなかった。


 ただ、エリオは驚いて見ているのに対して、サラサの方はどう贔屓目に見ても睨んでいるようだった。


「提督が女の子に興味があるとは意外ですね」

 マイルスターはいつまで経っても口を開けたままのエリオをからかった。


「あ、いや、別に、俺は男が好きだという訳ではないぞ」

 エリオは我に返ってそう言った。


 だが、自分でも何て言い訳をしているんだと感じ、バツが悪かった。


「そんな事を言っているのではありません」

 マイルスターは久々に一本取ったと言った感じでニヤリとした。


 エリオはマイルスターの方を見もしなかったが、一本取られたと言った感じで少しむくれていた。


「まあ、何にしても他人に興味を持たれるのはいい事だと思いますよ」

 マイルスターは一転して真面目な顔になって、しみじみとした口調でそう言った。


「??!」

 エリオは意外な事を言われたので、びっくりしてマイルスターを見た。


その後、

「俺って、そんなに他人に無関心かい?」

と取り繕うように、エリオはそう言った。


「そうですね、どちらかというと、少し人間不信なのではないでしょうか?

 昨今の影響で……」

 マイルスターは真面目だが、いつもの和やかな口調でそう指摘した。


「はぁ……」

 エリオはマイルスターの指摘に対して溜息をつきながらぼんやりと前を見詰めた。


 指摘が正しすぎて、反論できなかったからだ。


「まあ、何にしてもいい傾向ですよ」

 マイルスターは年長者らしくエリオにそう言った。


 エリオはともすれば、他人に無関心すぎる傾向がある。


 それは他人の悪意や嫉妬に対しても同様である。


 その事は、結構困った問題を引き起こしかねなかった。


 実際問題、問題の発生が頻発していた。


 なので、他人に関心を向ける事は重要である。


 そして、エリオの場合、それにより、正しい判断が行える筈である、たぶん……。


(そうなんだろうか……?)

 当のエリオは、何も答えずにただ波間を眺めていた。


 マイルスターの言葉が今一飲み込めないでいたからだ。


 とは言え、謎の美少女の突然の登場で、自分を見つめ直す切っ掛けになりそうだった。


(あの娘は……敵だよな……、しかも、かなりの!)

 サラサの強烈なオーラに当てられたエリオは、荒んでいた心を入れ替えないといけない切っ掛けになった……と思う。


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