その7
ざざざ……。
総旗艦艦隊とアリーフ艦隊は順調にスワン島へ向かっているようだった。
エリオは相変わらず無言で、無表情に甲板上に突っ立っていた。
もう昼間だからも知れないが、寝癖はなかった。
既にリ・リラの訪問を受けたから、ちゃんとなったのだろうか?
ただ、傍にいたマイルスターとシャルスはやれやれと言った感じでいた。
まあ、いつもの事で、しゃんとはなっていなかった。
じっとり……。
「ちゃんと仕事はしているだろ!」
エリオは生暖かく見守っている2人に耐えかねて、忌々しそうに声のトーンをあげてそう言った。
「えっと……」
とマイルスターは何とも言い難い表情になっていたが、
「はい、完璧です」
と空気読めませんシャルスは笑顔でそう言った。
それを見て、マイルスターは驚きの顔でシャルスを見つめた。
まあ、艦隊運用は全く留まりなく済んでいるのだからそう言えなくもなかった。
テキパキ、テキパキ……。
3人以外の所では、皆が忙しそうだが、効率的な仕事をしていた。
シャルスの言うとおり、そちらの方は、完璧だった。
「まあ、閣下の気持ちは分からなくもないですが……」
マイルスターはぼそっとそう言った。
その隣でシャルスもうんうん頷いていた。
勿論、全部の気持ちが分かっている訳ではない。
でも、少なくとも、この3年間は、エリオが荒んでいる事はよく分かっていた。
「うげっ……」
そんな2人をエリオは苦々しく感じた。
正直言って、自分の気持ちが自身では分からないのに、他人に言い当てられた気分だったからだ。
まあ、察しは誰でも付くとは思うのだが……。
更にいえば、実は、何も言い当てられていない……。
苦々しく思っていたエリオの事をマイルスターとシャルスは、相も変わらず生暖かい目で見ていた。
じっとり、じっとり……。
しばらく、そのような状態が続いた。
「何か、言いたい事はあるのか?」
エリオは再び視線に耐えかねて、不機嫌そうに言った。
「まあ、そうですな、閣下の予定通り、アリーフ艦隊に足を引っ張られたのは2日でした。
お見事です」
マイルスターは雰囲気を一変するように誘導した。
マイルスターが言った言葉は、エリオはただのやる気のない指揮官ではない事を示唆していた。
今回の航海は、出航前にエリオが全てを設定し、指示を出して行われているものだった。
そして、ほぼ予定通り進んでいたので、エリオの指揮能力の高さを示していた。
「総参謀長閣下が1日の遅れで済むと仰った所、閣下は2日と当てましたからね」
シャルスは感心したようにそう言った。
ここで言う総参謀長とはマイルスターの事であり、任命したのはエリオだった。
「自分の艦隊だけではなく、他の艦隊の練度などの把握はお見事としか、言い様がありませんね」
マイルスターはいつになく、エリオの事を褒めていた。
重い空気を取り払おうという彼の意思である事は明確だった。
おだて作戦か?
だが、2人におだてられたたエリオはエリオで、視線を艦の遙か後方に向けていた。
全く違う事を考え始めていた。
まあ、こう言った見え透いた作戦に乗れるほどエリオは人が出来ていなかったせいもあるのだが……。
(日程が遅れるくらいのならいいのだが……)
エリオは大いに不安に思いながらアリーフ艦隊の方角を見詰めていた。
荒んではいたが、思考は全く停止してはいなかった。
エリオはこの時、別の不安を感じていたのだった。
アリーフ子爵本人の性格はともかく、自身が完全に把握できていない艦隊と同行している。
それは、第3次アラリオン海戦の時と全く同じだったからだ。
まあ、今回は100%自分で招いた事なのだが、その部分は考えていないようだった。




