その31
ルドリフ艦隊を完全に包囲下に置いた事により、戦いの趨勢は決定された。
そう、1人以外は誰もがそう思った。
「エリオ艦隊から伝令。
戦果十分、直ちに撤退を望む」
マリオットがそう伝えてきた。
「やれやれ、また、撤退ですか……」
オーイットはこの期に及んでまだ撤退を主張するエリオに呆れ返っていた。
現状、こちらが圧倒的な有利である。
このまま推移すれば、戦果もまだまだ上がる。
こうした要素を考えると、撤退など思いもしないといった所だろう。
「ホルディム艦隊が接近してきます」
マリオットが次の報告をしてきた。
「ホルディム伯も宴会に参加したいと、寄ってきているな」
サリオは報告を聞いてそう言った。
既に勝ちが決まったような言い方だった。
とは言え、この状況から負けるというイメージが出来ないのは確かな事である。
「まあ、ここで撤退して功績をクライセン一族だけのものにするのも品がないかもしれないな……」
サリオは少し奢っているようにも見えた。
普段エリオを馬鹿にしているホルディム伯が、比類ない武功に肖りたいとばかりにすり寄ってきたので、思わずそう言ってしまった。
エリオの才能を認めているサリオにとっては、憤慨遣る方ないといった感じだが、普段は黙っていた。
こうなると、どんなもんだいと自慢したくなるのは無理もないかも知れない。
そう、サリオは親バカなのである。
「閣下、ご冗談を……」
オーイットはそんなサリオを諫めるように言った。
まあ、オーイットもサリオがそう言いたくなるのも分かる気がしていた。
とは言え、その助言により、サリオは自分の失言に気付き、苦笑した。
「そうだな、今はそんな事を考えている場合ではないな。
目の前の戦いに集中しなくては」
サリオは気を引き締め直すように言った。
「で、どうなさいますか?エリオ様からの撤退の件」
オーイットは本題に戻し、その決断を迫った。
「うーん……」
サリオはしばらく腕組みをして悩んだ。
いや、尤も、これは悩んでいる振りかも知れない。
「今は千載一遇のチャンスなんだ、撤退はしない。
まずはルドリフ艦隊を撃破し、その次に本隊であるハイゼル艦隊を撃破する。
それによって、ウサス帝国艦隊の北方艦隊に大打撃を与えるのが得策だ」
サリオはエリオの進言を拒否する事を決断した。
まあ、圧倒的な有利な状況を打ち捨てられる指揮官なんてそうはいないだろう。
それに加え、エリオが戦う前に不可能だと言っていた事が、現実味を帯びてきていた。
敵艦の殲滅、こちらの被害はほとんどない。
これに抗える人物はそうそういないだろう。
まあ、エリオは例外中の例外なのだが……。
あ、言い忘れていたが、ホルディム艦隊の損害は考えてはいないようだ。
「了解しました。
しかし、エリオ様には……」
オーイットは安心と同時にエリオへの気遣いも見せた。
「また、損害を増やして、金が飛んでいくと文句を言われるだろうな。
その時は、俺がエリオに小言を言われれば済む事さ」
サリオは茶目っ気たっぷりに笑った。