表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
1.第3次アラリオン海海戦
3/143

その3

「砲撃準備、一番槍を掴むぞ!」

 神経質そうな中年男が嬉々とした口調で、怒鳴り声を上げていた。


 彼の名は、カイオ・ホルディム。


 爵位は伯爵、階級は少将。


 リーラン王国海軍副司令官で、西方艦隊の責任者だった。


「閣下、総司令官からのご命令はまだ下ってはいませんが……」

 真面目そうな青年がホルディム伯に忠告した。


 副官のマリデンだった。


「ふん、我が艦隊の速力に付いて来られない奴らの言う事など聞く必要はないわい」

 ホルディム伯は心底軽蔑していた。


「はぁ……」

 マリデンは何と答えていいか分からなかった。


 ざっぱーん、ぐらぐら、ぎぃぎぃ……。


 艦が大きく揺さぶられた。


 マリデンは思わず転びそうになった。


(速度が出すぎているのでは?)

 マリデンは危険性を感じていた。


「痛ぁ」

 ホルディム伯の方は無様にも尻餅をついていた。


「閣下、大丈夫ですか?」

 マリデンは慌ててホルディム伯を助け起こした。


「大事な……」

 ホルディム伯が忌々しそうにそう口にした瞬間、再び艦が大きく揺さぶられた。

 

 ざっぱーん、ぐらぐら、ぎぃぎぃ……。


 ホルディム伯は再び転んでいた。


 マリデンの手が虚しく空を掴んでいた。


 無様に転んでいるホルディム伯よりマリデンの方が動揺していた。


 艦はスピードに乗っていて、敵艦隊へとまっしぐらに進んでいた。


 動揺しているマリデンを他所に、ホルディム伯は腰をさすりながらも1人で起き上がった。


「砲撃開始!」

 ホルディム伯は顔をしかめながらそう命令を下した。


「えっ……」

 マリデンはホルディム伯の予想外の言葉に更に動揺して固まってしまった。


 ホルディム伯の方は既に気を取り直したようで、楽しげに砲弾が落ちる先である敵艦隊を見ていた。


 だが、砲撃が始まらなかった。


「何をしている!

 砲撃開始だ!」

 砲撃が開始されないので、ホルディム伯は一気に険しい顔つきになっていた。


「あ、はい……、しかし、まだ射程圏外と思われますが……」

 マリデンは困惑を益々深めていった。


「多少の事なら構わん……」

 ホルディム伯は先程コケた事による鬱憤を晴らそうとしているようだった。


(多少って、何?)

 マリデンは思った事を思わず口にしようとしたが、グッと堪えた。


「これは一番槍という名誉と、後ろで怯えている奴らに我が艦隊の勇猛さを示す為だ!」

 ホルディム伯は少し悦に入っているようだった。


 マリデンは今すぐこの場を逃げ出したい衝動に駆られた。


 しかし、そんな事が出来る訳ではなかった。


 マリデンはホルディム伯に敬礼して、踵を返した。


「全艦、砲撃開始!」

 マリデンは伝令係に向かって、ホルディム伯の命令を復唱した。


 ドッカーン、ドッカーン……。


 命令はすぐに実行に移されて、ホルディム艦隊の全艦からの砲撃が開始された。


 変な形で始まったが、これが第3次アラリオン海海戦の幕を上げる砲火であった。


 第2次アラリオン海海戦から15年後の太陽暦531年5月のことだった。


 第1次、第2次と比べるまでもない数の艦艇数が参加しており、激しい戦いが予想された。


 参加艦艇数だけだと、史上最大の海戦になる。


 エリオとオーマ、敵味方に分かれている2人が似たような決断を下したい中、それが出来ない中の開戦だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ