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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
1.第3次アラリオン海海戦

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その19

「よし、目標敵旗艦、撃て!」

 エリオはルドリフ艦隊とのすれ違いざまにそう命令を下した。


 ドン!


 急速発進してから、初めての砲撃だった。


「敵旗艦に命中……、ただし、撃沈は認められず。

 艦尾に命中した模様」

 シャルスがそう報告してきた。


「少しズレましたね、修正させます」

 マイルスターはそう言った。


「まあ、初弾で当たったのだから、うちの砲撃手は優秀だよ」

 エリオは笑顔でそう言った。


 エリオは褒めたつもりだったが、艦内の雰囲気はちょっと悪くなった。


 砲撃手達のプライドを変に刺激してしまったらしい。


 それは色々な経緯があった為の反応であったのだ。


 そんな事をつゆ知らず、エリオは次の段階へ進もうとしていた。


「ルドリフ艦隊、追ってきません。

 総旗艦艦隊の方へ向かっています」

 シャルスの次の報告が上がってきた。


「うーん、予想通りだな……」

 エリオは困った顔をしていた。


 予想通りなら、困る必要はない筈である。


「閣下、何か心配事でも?」

 マイルスターは気になったので聞いてみた。


「こうなると、激戦は避けられそうにないな……」

 エリオはそう答えると、本当に困った顔をしていた。


(既に激戦になっているのに、何をそんなに気になさっているのか……)

 マイルスターは口には出さなかったが、エリオとは別な意味で困ってしまった。


 マイルスターはエリオとの認識の齟齬が出来るのはよくある事だった。


 大概はエリオの妙な見方によるものなのだが、その度に、不安に駆られた。


(こちらを包囲殲滅しに来てくれれば、撤退する機会があったものの……)

 エリオはがっかりしていた。


 ルドリフ艦隊はエリオ艦隊を追い掛けてくると、後続のハイゼル艦隊と挟撃、包囲できる可能性が生まれる。


 エリオはそうなる可能性を見せつつ、2艦隊を引きずり回した後に、離脱する事を考えていた。


 その場合、サリオ艦隊もアスウェル艦隊も離脱はすんなりいくだろう。


 この作戦の問題点は、エリオ艦隊が逃げ果せるかどうかである。

 

 だが、その点に関してはエリオ自身が一番得意とする戦法だったので自信は揺るぎないものだった。


 まあ、この事は今は考えても致し方がないことだった。


「まあ、それはともかく、今はあの艦隊を止めないと……」

 エリオはそう言うと、右側前方に現れた本隊であるハイゼル艦隊を見た。


 完全に気持ちを切り替えて、今に集中した。


 マイルスターの方はエリオの言葉を聞いて、安心した。


「敵の5番艦に攻撃を集中!

 敵を分断するぞ!」

 エリオはいきなりそう命令を下した。


 この辺の変わり身の早さ、まあ、この表現はあまり正しくはないと思うが、切替の速さにマイルスターはたまについて行けなくなる。


「……」

 柔やかに笑いながらマイルスターは目が点になっていた。


「5番艦に向けて、砲撃始め!」

 シャルスの方は何の躊躇もなく、命令を復唱していた。


 やはり、この辺は幼少の頃から一緒にいた仲なのだろう。


 性格をよく分かっていた。


 どんかっーん!!!


 エリオ艦隊の砲撃可能な全砲門がほぼ同時に火を噴いた。


 砲弾は狙い通りに、5番艦に次々に命中し、ついには撃沈させた。


「初撃で命中させるとは……、流石だな……」

 これにはエリオは呆気にとられていた。


 期待以上の戦果だったからだ。


 そのエリオの姿を見て、声には出さないが、水兵達は妙に沸き立っていた。


 ルドリフ艦隊旗艦に砲撃した時といい、今回の砲撃といい、エリオと水兵との間には妙な競争関係があるようだった。


 尤も、エリオはそれに気付いていないようだが……。


「敵艦隊の亀裂を広げるぞ!

 突入!」

 エリオは次の命令を下した。


 - 艦隊配置 -

       Hr

 As SC

   

   RH

    Hi×EC

   OR


 As:アスウェル艦隊、SC:サリオ艦隊(旗艦)、Hr:ホルディム艦隊

 EC:エリオ艦隊

 OR:オーマ艦隊、Hi:ハイゼル艦隊(旗艦)、RH:ルドリフ艦隊


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