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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
13.セッフィールド島沖海戦

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その4

「???」

 サラサは急に立ち止まった敵艦隊を見て、固まってしまった。


「止まりましたね……」

 バンデリックの方は見たままの光景を口にしていた。


 サラサはそのバンデリックの言葉に現実に引き戻されたような気分になった。


「止まったねぇ……」

 サラサは敵の思わぬ行動にまだ当惑していた。


 深読みすれば、何かの罠に違いなかった。


 だが、罠を仕掛けるのにも、ここで停止するのはあまりにも有り得なかった。


 とは言え、開戦まで時間が出来てしまった。


「もう一度、確認するけど、ウェイドンのロイド伯には事態はちゃんと伝わっているのよね」

 サラサは念押しをした。


「はい、間違いなく。

 不測の事態に陥った時には、ウサス皇帝陛下から、提督の指揮下に入るように指示されているので、間違いなく、それに従うと」

 バンデリックはサラサが聞きたい事を漏れなく答えた。


 形は皇帝からの命令だが、指図は明らかにフレックスシス大公によるものだった。


 ウェイドン入港後に、その事をロイド伯から聞かされたサラサは戸惑うと共に、大公の抜け目なさを感じ取った。


「マイラック公やケイベル候の方は?」

 サラサは更に質問を重ねた。


「はい、そちらもぬかりありません」


「帝都の方は?」


「ロイド伯を通じて、連絡を取って頂いております」


「よろしい。

 これで、南方艦隊からの救援は無理でも、中央艦隊からの救援は来るわね」

 サラサはさらりと自然体にそう言った。


「え?」

 バンデリックの方はその自然体の姿に逆に驚きを隠せなかった。


 敵の数は多くない。


 その為の仕込みも行っている。


 そうなれば、我が艦隊だけでも十分ではないかと思われたからだ。


「人を戦闘狂みたいに思わないでね」

 サラサはバンデリックが何を思ったのかを察した。


「いえ、決してそのような事は思っていませんが……」

 バンデリックはお茶を濁した。


 無論、考えている事と言っている事の乖離があったからだ。


「大概失礼なヤツねぇ……」

 サラサはバンデリックの気持ちを察して不満を口にした。


 現海域にいる自艦隊の総数は16隻。


 出撃させた艦数とは合っていなかった。


 つまり、別働隊を組織していた。


 そして、その別働隊を副将のマリックに任せた時も、バンデリックの反応は何ともし難いというか、何と言うかという反応だった。


 時が来たら、その別働隊の方が派手に動き回る事は明らかだったからだ。


 これまでの役割としては、別動隊の役割はサラサだった。


 だが、艦隊司令官としては、別な者にその任を任すのは当然の事だった。


 この事はバンデリックを大いに安心させた。


(きっと、お嬢様は断腸の思いで役を譲ったのだろう……)

 バンデリックはそう思いながら今回の出来事を眺めていた。


 そして、その思いを悟られないようにするバンデリックがいた。


 まあ、隠し通せるは出来なかったようなのだが……。


 見破られてしまったが、サラサのバンデリックへの反応は、当たり散らすどころか、ギロリとも睨まれなかった。


 今の反応と合わせて、後で、まとめてくるのだろうかと思うと、バンデリックは気が気でなかった。


 目の前の戦闘より、サラサの方が怖いというのも、ちょっとどうかしているかも知れない。


「今回の戦いは敵に上陸の機会を与えなければ、それで十分よ」

 動揺しているバンデリックを他所に、サラサは今回の戦いの方針を告げていた。


 そうして、動かない敵相手に、無為な時間を過ごしていた。


 が、敵もずうっと動かない訳ではなかった。


「ん?動いたようね」

 敵の動きに最初に気が付いたのはサラサだった。


 敵艦隊はこちらが自分達より少ないと見て、蹴散らしに来たのは明らかだった。


「まあ、今回は素直に撤退してくれても良かったのにね」

 サラサはニヤリと笑いながらそう言った。


 まあ、口ではそう言っていたが、本心では違っていたのは言うまでもなかった。


 バンデリックといい、サラサといい、どうも本心とは真逆な事を言う事が流行っているらしい。


 そして、これまでどこか達観していた様子だったサラサが、空恐ろしいが、とても美しい笑顔へと変わっていった。


 それが戦闘の合図だという事は誰の目にも明らかだった。


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