その13
「先行した5隻、全滅しました」
マリデンはそう報告した。
と同時に、分断されたまま突撃していったので、残念な事だが当然の結果と思っていた。
それに続く艦もなければ、残った艦は未だに混乱していた。
「……」
ホルディム伯はその報告を受けて、呆然としていた。
ちょっと前までの自信と歓喜に満ちた表情はなかった事になっていた。
「敵艦隊、接近してきます」
マリデンは何も言わない伯爵に注意を促す為に、そう報告した。
ルドリフ艦隊は圧を掛けるように、理路整然としてこちらに向かってきていた。
それと共に、砲撃による圧も凄かった。
対するホルディム艦隊は、指揮官から、次の命令が出されてはいなかった。
それでも、各艦は生存本能から、混乱から抜け出そうとしていた。
だが、統制しようとする者がいないので、如何せん、まとまりに欠けていた。
悲惨である。
とは言え、ルドリフ艦隊はそれに合わせてはくれないのは言うまでもなかった。
ばしゃーん!!!
互いに距離が縮まる中、ホルディム艦隊旗艦にも至近弾。
「ひゃ……」
ホルディム伯は目を覚ましたような声で何やら言った。
マリデンはそれが聞き取れなかった。
いや、聞き取りたくなかったのかも知れない。
ただ、伯を見ると、それは事実と思われたので、今度はマリデンが呆然としてしまった。
この期に及んで、そんな態度を示すとは思わなかったからだ。
「180度転進!」
裏返った声だが今度のホルディム伯の声ははっきりとマリデンには聞き取れた。
ただ、旗艦にいて、この声が聞こえたものは全員固まってしまった。
無論、予想外の事を命令されたからだ。
現状は曲がりなりにも、撃ち合いが始まるべき場面だった。
確か、大分前の命令ではあるが、反撃を命じた筈だったが……。
それが、どうして、いきなり撤退なのか、意味が分からなかった。
「閣下……」
マリデンは取りあえず副官の責務を果たそうと口を開いた。
「何をしている、早く180度転進するのだ!」
ホルディム伯はその責務を果たせなくさせる為に、そう叫んだ。
「……」
あまりの事に、マリデンは言葉を失ったようだった。
「数的不利だ。
一旦転進して態勢を立て直す」
ホルディム伯は固まっているマリデンに尋ねていない理由を述べていた。
(数的不利って……)
マリデンは目の前が真っ暗になった。
「180度転進だ!
転進だ!
180度!」
動こうとしないマリデンに代わって、ホルディム伯は伝令係に向かって走りながら叫んだ。
22vs18から17vs18になったのが、伯爵の目には致命的なものだと映ったようだった。




