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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
11.海賊退治

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その4

 太陽暦528年6月、ついにその時を迎えた。


 この時、エリオは10歳児から11歳児になっていた。


 そして、この日、エリオは王都カイエスの軍港にいた。


 再従兄達の初航海の為に、入港してくる艦隊の出迎えの為だった。


 東方第1、2艦隊からそれぞれ5隻ずつ、計10隻もの艦隊が王都軍港に入るのは久しぶりの事だった。


 クライセン家の方針転換により、大艦隊を王都に入れる事がなくなったからだ。


 今回は、マキオとサキオの初航海という事もあり、例外的に入港させていた。


「あにき!」

「あにき!」

 接岸した両側からの艦から同時にエリオを呼ぶ声が聞こえた。


 言うまでもないが、マキオとサキオだった。


 エリオは嫌な表情を隠す事はしなかった。


 2人は左右に接岸した艦から鏡写しのように、艦を駆け下りてきた。


 そして、桟橋をエリオの方に走り出そうとした所を、それぞれの親に首根っこを捕まれた。


 2人は猫を掴むように持ち上げられると、

「失礼を働くな!」

「失礼を働くな!」

とこれまた同時に、親に怒られていた。


 エリオはボケラッとそれを眺めていた。


 ただ、サリオを始め、エリオの傍にいた人間達は笑っていた。


 マサオとササオもクライセン家のみの出迎えだったら、そう言った事をしなかっただろうが、ここにはクライセン家以外の者がいた。


 それはエリオのシャツの裾をしっかり握っていたリ・リラだった。


 マサオとササオは対になって、自分の息子を猫の子運びをしながらリ・リラの前に進み出てきた。


 エリオは妙な圧迫感を受けながらも、リ・リラが自分の後ろに貼り付いているので、動けずにいて微妙な表情になっていた。


 リ・リラは、エリオが初航海から帰ってきた後、ずうっとエリオの後を付いて回っていた。


 これに対して、エリオは、迷惑ではないが、ちょっと困っていた。


 そんな中、進み出てきた4人は、リ・リラの前で立ち止まった。


 マサオとササオはリ・リラの前でさっと跪いたが、マキオとサキオはボケッと突っ立ったままだった。


 2人の親から同時に、後頭部をぺしゃりと叩かれると、マキオとサキオは訳分からない取った感じだったが、親に習って、跪いた。


「覚えていらっしゃいますか?殿下。

 東方第1艦隊をお預かりしているティセル男爵マサオでございます」


「東方第2艦隊をお預かりしているアトニント男爵ササオでございます」


 親達がまず恭しく挨拶した。


 リ・リラはエリオの後ろに隠れながらもコクンと頷いた。


 とても可愛らしい反応だったが、この後の成長を考えると、この可愛らしさはとてつもない破壊力を有していた。


 ……。


 リ・リラが頷いた後、間の抜けた沈黙が流れた。


 ごん!!

 ごん!!


 鈍い音がした。


 親達が子供達を叩いた音だった。


 鈍い音は先程のパーからグーに変わった事を示唆していた。


「ティセル男爵が嫡子マキオでございます」

 マキオはクラクラしながら自己紹介をした。


「アトニント男爵が嫡子サキオでございます」

 サキオも目の焦点が微妙なので、クラクラしているのだろう。


 ……。


 2人の自己紹介後も沈黙が訪れてしまった。


「リ・リラ……」

 エリオはやれやれといった感じでリ・リラの方を向いた。


 リ・リラはエリオに戸惑い表情を返した。


 エリオはニッコリしながらリ・リラの背中をゆっくり押して、自分の前に立たせた。


 リ・リラはエリオの前に出された事で、一層困った表情をした。


 それが何とも愛らしく、ほんわかした空気が流れた。


「王孫女リ・リラです」

 リ・リラは困った表情から意を決した表情になってそう言った。


 リ・リラに自己紹介されて、マキオとサキオは自分達がどうしてこうもぞんざいに扱われていたのか、ようやく理解したと言った表情になった。


 とは言え、リ・リラの自己紹介により、よりほんわかした空気に拍車が掛かったので、2人もそれに釣られるように、ほんわかしていた。


「皆さんの来訪を心から歓迎致します」

 この時のリ・リラは王族の威厳というものは全く感じられなかった。


 だが、それを気に留めない程の愛らしさを有していた。


「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 その場にいた4人はハモるように言った。


 父親達は恭しかったが、子供達の方は熱の籠もった言い方だった。


 えっ!?と言った感じで父親達は我が息子を見たが、そこには歓喜に満ちた我が子がいた。


 バツの悪そうな思いで、父親達はリ・リラの様子を伺う他なかった。


 リ・リラの方は一杯一杯だったので、歓迎の意を述べると、再びエリオの後ろに隠れるように下がってしまった。


 リ・リラが歓迎の意を表明したのは、この場にいる誰よりも一番地位が高かったからだった。


 現在10歳とは言え、既に、正式に王位継承権第1位になっていた。


 成人後は王太女になる事が決まっており、この時点でこの国のナンバー2であった。


 そのリ・リラに対して、エリオは口には出さなかったが、よく出来ましたと言った笑顔を向けた。


 リ・リラはその笑顔を見て、はにかみながら笑顔を返していた。


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