その10
サリオ艦隊はその後、ティセルに入港した。
エリオはサリオのすぐ後ろを付いて、その地に降り立った。
出迎えが一斉にサリオに敬礼すると、サリオは答礼をした。
「遠い所を遙々おいで下さりました、公爵閣下」
と右側の先頭にいた男がサリオにそう話し掛けた後、
「そして、初めまして、エリオ様。
私はティセルをお預かりしているマサオ・クライセンと申します」
とエリオの方を向いて、挨拶した。
マサオ・クライセン、彼はティセルの領主、正確に言うと、クライセン惣領家からティセルを委託されているティセル男爵であり、東方第1艦隊の司令官だった。
公式には、ティセル男爵マサオ呼ばれる。
「あ、初めまして、エリオです」
エリオはサリオの従兄であり、自分の伯従父であるティセル男爵に挨拶を返した。
そして、サリオの次に挨拶をされた事で、順位が高い事に驚いていた。
まあ、一応、惣領の跡継ぎなので当然なのだが……。
あ、それと、一応、エリオの初航海なので、主役の筈でもある。
「これが、息子のマキオです」
ティセル男爵は次に自分の息子を紹介した。
隣にいたマキオは黙ってエリオに頭を下げた。
エリオもそれに釣られるように、頭を下げた。
目が合った途端、エリオでも分かる敵意を感じていた。
「初めまして、エリオ様、アトニントをお預かりしているササオ・クライセンでございます」
挨拶に割り込むようにしてきたのは、サリオの従弟で、エリオの叔従父であるアトニント男爵だった。
ササオはティセルの隣の都市アトニントを管轄しており、公式にはアトニント男爵ササオと呼ばれる。
東方第2艦隊の司令官である。
「あ、どうも……」
急に割り込んできたので、エリオはびっくりしてしまい、曖昧な返事になってしまった。
と同時に、違和感を感じた。
(順番的に言えば、マキオの前に、こちらの男爵閣下が先だよねぇ?)
エリオはそう思いながら観察に徹する事にした。
「そして、これが息子のサキオです」
アトニント男爵は構わず隣の息子の紹介をした。
親の隣にいたサキオもマキオ同様に、黙ってエリオに頭を下げた。
無論、サキオもマキオ同様にエリオに敵意を向けていた。
(俺、どうなるんだろう?)
エリオはそう思いながら再び釣られるように、黙って頭を下げた。
とは言え、相変わらず危機意識などには無縁のようだった。
そして、ティセル男爵とアトニント男爵の兄弟仲が悪い事も同時に悟るのであった。
(しっかし、兄弟がいがみ合っているようだけど、この地は大丈夫なのだろうか?)
その後、主だった人物の紹介が一通り終わった後、マキオとサキオが自分のそれぞれの親に何かを促すような仕草をしていた。
「エリオ様、マキオが……」
とティセル男爵がそう言い掛けた時に、向かい側から妙なプレッシャーを受けたのに気が付いた。
無視してもいいとは思ったが、ティセル男爵はまあいいかといった感じになって、
「マキオとサキオが、エリオ様を歓待したいと言っております」
と言い直した。
「はぁ……」
エリオは気のない返事をした。
流石のエリオも事態が飲み込めないでいた訳ではなかった。
まあ、よそ者に対してのあれか、同年代でのあれかといった感じだろうという気はしていた。
まあ、あれってどれよって感じなのだが……。
「サリオ様、よろしいでしょうか?」
ティセル男爵は、不敵な笑みを浮かべて一応サリオにお伺いを立てていた。
「うん、いんじゃないか!」
サリオは、自分の息子がこれからどう言う目に遭うかを知った上で、快活にそう答えた。
エリオはそんな父親を恨めしそうに見た。
そして、それを確認した父親は更に嬉しそうに笑っていた。
何故か、自分の息子が困難な立場に陥ると瓦全と元気になる癖があるらしい。
「どうぞ、こちらに」
マキオは礼儀こそ正しかったが、好戦的な意思はそれを覆い隠す事が出来なかった。
エリオはやれやれ感満載で、導かれるままにその後を付いていった。
ここでも、人に絡まれる、軽蔑される特技が出てしまっていた。
マキオとサキオ、そのお守り役が1名ずつ、先行し、その後にエリオが続いた。
そして、その横にはシャルスがいた。
いつもなら、初めて来た街なのだから駆け出してどこかに行ってしまう筈のシャルスがエリオの傍にいた。
それだけで、エリオは嫌な予感しかしなかった。
何でもない時は必ずシャルスは傍にいなかったが、碌でもない目に遭う時にはシャルスは必ずいたからだった。
(という事は、俺は、やっぱり、この後、碌でもない事に巻き込まれる訳ね……)




