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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
10.初航海

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その6

 サリオとオーイット達が救出作戦を立案していた。


「閣下、どうやら商船団全船に海賊の侵入を許した様です」

 マリオットは残念そうに報告すると、盤上の配置を動かした。


「商船の連中をほとんど助ける事が出来ないやも知れませんな」

 オーイットが悲痛そうに言った。


「白兵戦に持ち込むのは?」

 サリオはそう提案した。


 正に、正面突破の漢の戦い方だ。


「海賊船は11隻、こちらは5隻。

 数的不利なので、かなり苦戦しそうですな」

 オーイットはそう言ったが、負けるとは言っていなかった。


 それどころか、何故か楽しそうだった。


「まあ、数的不利は仕方がない」

 サリオは、腕組みをしながらそう言った。


 困ったように見せ掛けて、ウキウキしているのは明白だった。


 まあ、これから漢の戦いをしようとしているのだから、当然か……。


 と同時に、海賊なんぞ恐れるに足らずといった感じだった。


(えっ?!)

 エリオの方は驚いた表情で、立案の成り行きを見ていた。


 兵数では不利だが、砲数では圧倒的有利なのに、それを捨てるのは愚策と思えたからだ。


 とは言え、何も言わなければ、このまま決まってしまいそうだった。


「父上、ちょっとよろしいでしょうか?」

 エリオは意を決した。


「何だ?エリオ」

 決定を下そうとしたサリオは出鼻を挫かれた感があった。


 だが、聞く耳持たないという雰囲気ではなかった。


 その辺が、サリオの度量の広さを示すものなのだろう。


「敵の親玉はこの船だと思われます。

 これを脅しつけて、兵を引かせるのが得策だと思います」

 エリオは盤上の船を指差してそう言った。


「どうして、そいつが親玉だと?」

 サリオは疑問点を聞いた。


「位置的に、全船の動きが見やすく、指示が出しやすいからです」

 エリオはきっぱりと言った。


「うーん、成る程」

 オーイットは唸るように言って感心していた。


 配置から一瞬で言い当てたのに、驚いていた。


「具体的には我々はどう動けばいいのだ?」

 オーイットが納得したのを受けて、サリオは話を進めるように言った。


「旗艦を親玉の目の前、2番艦をここ、3番艦はここ、4番艦はこの位置、そして、5番艦をここに持ってきて、包囲網を敷きます。

 そして、旗艦の砲によって、親玉に命令するのです。

 『命は助けてやるから、ここから去れ』と」

 エリオはすらすらと作戦を説明していった。


「成る程」

 オーイットはまた感心していた。


 サリオの方は息子に押され気味になり、焦りを覚えていた。


「敵が従わなかった場合はどうするのだ?」

 サリオは更に質問をした。


 エリオとオーイットは同時にえっ?という表情をした。


「ああ、その時は、親玉を砲撃で潰します。

 艦隊の配置位置から、その他の船も砲撃で簡単に潰せるでしょう。

 そして、砲撃で混乱した敵に対して、白兵戦で殲滅するという流れになります」

 エリオは淡々と説明した。


 10歳児のこの冷静さに、水兵達までも得体の知れない何かを見るような雰囲気になっていた。


「まあ、でも、最初から白兵戦をやるよりは、こちらの方が遙かにいいですね」

 オーイットはそんな雰囲気をもろともせずに、エリオの意見に賛成した。


 各艦の配置が絶妙で、砲撃戦に有利だった。


「果たして、上手く行くのだろうか?」

 サリオは一応挑発的に聞いてみた。


「迅速な艦隊運動が必要ですが、この艦隊はそんなにのろまなんですか?」

 エリオは、目をパチクリさせながら、とんでもない事を言ってのけた。


 それを聞いた瞬間、サリオとオーイットは頭を抱えた。


 ピキーン!!


 水兵達から並々ならぬ、殺気が感じられてきた。


 水兵達の心に火を付けた格好になっていた。


 まあ、10歳児とは言え、その発言は許せないものだった。


 とは言え、当のエリオはそれに気が付かず、平然としていた。


 この頃から、煽り上手だったのだろう。


 まあ、本人は煽っているつもりはこれっぽちもないのが、事を複雑にしているのだが……。


「分かった、分かった、その策で行こう」

 サリオは降参とばかりに、両手を軽く挙げた。


「ありがとうございます」

 エリオは意外にもあっさりと自分の案が通ったので、驚いていた。


 久々に見せる10歳児の表情かも知れない。


「そうと決まれば、全艦、直ちに救出作戦を決行する」

 サリオは命令を下した。


「了解しました」

 マリオットは敬礼をすると、伝令係に作戦の指示を行った。


 おっしゃ!!


 気のせいか、いつもより気合いが入っている水兵達の雄叫びがサリオの耳には入っていた。


(もしかしたら、エリオにはこちらの才能があるのかも知れないな……)

 サリオは褒めていいのやら、自分の案をあっさりと蹴り飛ばされた事に悲しんでいいのか、分からない気分だった。


(にしても、奴らを煽る必要はないのでは?)

 サリオは水兵達がいつになく気合いが入っているのを見て、やれやれ感満載だった。


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