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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
10.初航海

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その4

 クラセックは東方大陸へ帰途に就いていた。


 今回はクライセン家との大きな取引があったので、大きく満足する筈だった。


 だが、どうにも気分が晴れなかった。


 思惑以上の成果を上げたのに、おかしなものだと感じていた。


「伯父貴、どうしたのですか?」

 船上でぼうっと海を眺めているクラセックに、甥のマナラックが声を掛けた。


 甥もこの航海中ずうっと浮かない表情をしている伯父が気になっていた。


 伯父夫婦には子供がいなく、甥は両親を成人前に亡くしていた。


 なので、この甥は跡取りだった。


「うーん、どうしたのだろうかな……」

 クラセックは自分の感情を上手く言葉に出来ないでいた。


 喪失感みたいな安心感みたいな複雑な気持ちだった。


 取りあえず、2つの相反する感情がごちゃ混ぜになっている事は声を掛けられた事で認識はした。


「クライセン家との取引は上手く行ったのですよね?」

 マナラックは自分に何か見落としがあるのではないかと不安に駆られていた。


「上手く行ったねぇ。

 いや、上手く行き過ぎたかも知れない」

 クラセックは自分の言った言葉を噛みしめるような感じになっていた。


「それは不味い事なのですか?」

 マナラックは伯父の顔をじっと見ながら聞いた。


 取引中はそうでもないが、それ以外の時は意外に表情に出る事を甥はよく知っていた。


 その観察状況から、これまで見た事のない何とも言えない表情をしているのが分かった。


 ただ、言葉の歯切れが悪い割に、落胆しているという訳ではなかった。


「……」

 意外な事に、クラセックからの答えはなかった。


「順を追って、考えてみては?」

 答えが返ってこなかったので、マナラックは打開案を提案してみた。


「!!!」

 クラセックは提案に対して、ハッとした表情になったが、またもや答えなかった。


 ただし、その提案には同意したようだった。


「エリオ・クライセンが動いている事を察知した伯父貴は接触を試みたのですよね」

 マナラックは事の最初から確認しようとした。


「そう、そのエリオ様だ!」

 クラセックは我が意を得たりといった感じで声を上げていた。


 いきなり、「えっ、そこ?」って所で反応したので、マナラックは目をパチクリしながら驚いていた。


「あのエリオ様とやはり、直接交渉すべきだったな」

 クラセックは自分の感情の由縁が解明できたらしく、明朗にそう話した。


「えっと、確か、10歳でしたよね」

 マナラックは益々不安になっていった。


「ん?そうだったかな?」

 クラセックはマナラックの指摘などどうでもいいといった感じだった。


 そこは否定したり、驚いたりする場面を想像していたので、マナラックには、全く理解が出来なかった。


 そして、伯父がおかしくなったのではと訝しがった。


「そう、エリオ様がキーになる事は間違いがない」

 クラセックはマナラックの思いとは裏腹に、結論を出していた。


「天才児である場合はあるのでしょうけど、そんなに凄かったのですか?

 1回しか、面会していませんし、それも短時間でしたよね」

 マナラックは完全に伯父の事を疑っていた。


「いや、それが全然凄くなかったんだ……」

 クラセックはエリオとの面会を思い出しながらそう言った。


「ええっと……」

 矛盾した事を言い出した伯父に対して、マナラックはもうどう言っていいか分からなくなってしまった。


「凄くはなかったのだけど、あのまま交渉を続けていたら、これほどの利益を得られなかったろうな」

 クラセックはしみじみと言った感じでそう言った。


 その言葉を聞いて、マナラックは混乱の極みに達していた。


「よく分からないのですけど、そのエリオ様がキーになるかどうかは置いといて、利益がより多い方がいいので、今回はこれで良かったのでは?」

 マナラックは混乱しながらもクラセックの矛盾している点を突いた。


 この辺はマナラックの地頭の良さを感じられる。


「今回だけの取引ならばな」

 クラセックは短くそう言い切った。


 マナラックは何となくだが、伯父の言いたい事を理解できた気がした。


「短期的な利益も大事だが、長期的な利益の方がより大事だからな」

 クラセックは続けてそう言った。


 何だか、自分にも言い聞かせるようだった。


「まあ、エリオ様はクライセン家の跡取りですから、より長い間、クライセン家にいる訳ですから、そうかも知れません」

 マナラックは、クラセックの意図がそこにあると確信してそう言った。


「事実としてはその認識で間違ってはいないが、わしが言いたいのはそうではない。

 あの御方はとんでもない人物になる。

 いや、すでにその片鱗を見せていると言っても過言ではない」

 クラセックはそう言い終わると、ニヤリとした。


 マナラックは、エリオに会った事がないので、無信全疑だった。


 まあ、つまり、眉唾物としか思えなかったのだった。


「クラセック様、海賊に取り囲まれました!」

 部下の1人が慌てて2人の元に知らせてきた。


「バカな、この航路は安全だと言っていたのに!」

 マナラックは信じられないと言った表情をしていた。


「嵌められた」

 クラセックはそう言うと、唇を噛みしめた。


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