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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
10.初航海

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その1

挿絵(By みてみん)


 エリオの初航海はその後、紆余曲折を経て、事件から5ヶ月後の太陽暦527年12月に行われた。


 本来ならば、晴れやかな気持ちで臨む所なのだろうが、全く晴れやかではなかったのは言うまでもなかった。


 この5ヶ月間は王宮に押し込められるような感じになっていた。


 窮屈だったが、我慢して、剣術や勉学に励む事にした。


 特に、これまで真面目に取り組んでこなかった剣術には力を入れた。


 まあ、力の入れ方が普通とは違っていたのだが……。


 それはともかく、どうしたら自分の身が守れるのかを真剣に考えて、取り組んだ。


 また、それ以外に気掛かりな事があった。


 マナトの事だった。


 今回の件で、マナトには異動が命じられていた事を人伝に聞いた。


 その原因はエリオにあったのは間違いがなかった。


 その事に対して、謝罪なり、抗議なりをしたかったが、サリオに取り合うどころか、会う機会さえなかった。


 ただ、それは意図的に避けているのではなく、親子が会う機会に乏しいのはいつもの事だった。


 まあ、そんなんだから、これまでずうっとエリオは王宮に預けられていたのだった。


 そんな日々が続いたある日、いきなり初航海だと告げられた。


 当然、エリオにとって、あまり気分が良いものではなかった。


 普段はボーッとしていて、感情の起伏が乏しいエリオだったが、この時ばかりは10歳児らしい感情を体現させていた。


 ただ、らしいとはまた別なのかも知れないが、今回の初航海に対して、不機嫌になるという感情は有していたらしい。


 不機嫌なエリオを乗せた艦隊は王都カイエスを出港すると、ハーポルハム湾を抜けた。


 そのまま外洋に出るのかと思ったが、すぐ近くにあるクライセン家の領地であるマライカンに入港した。


 マライカンはクライセン公爵家の嫡子に与えられる侯爵位に冠する都市名だった。


 エリオが成人になった暁には、マライカン侯エリオとなる筈だった。


 まあ、そうならなかったのはご存知の通りなのだが……。


 それはともかくとして、出港したと思ったらすぐに入港したので、エリオは戸惑っていた。


(初航海はこれで終わり?という事はないよな……)

 エリオは何とも言えない妙な感情と共に、それも悪くないという気分にもなっていた。


 初航海など、どうせ形だけの儀式みたいなものだと思っていたからだろう。


 エリオは気の乗らないといった気分で、サリオ達と共に下艦した。


 港で待ち受けたいたのは、リンク・クライセンと幕僚達だった。


 この時、リンクは父親がまだ健在だった為に、王都に駐在していた。


 そして、総旗艦艦隊の一部隊の指揮を執っており、副将の役割も果たしていた。


「エリオ様、この度は初航海、おめでとうございます」

 出迎えたリンクはそう言った。


「ありがとうございます」

 お祝いされたエリオは戸惑いながらそう答えた。


 何か、変な違和感を感じていた。


 とは言え、この時のエリオは投げ槍にもなっていたので、それに気付くのが遅れた。


 まあ、10歳児なので、気付く方がおかしいのだが……。


(あれ?)

 エリオはその違和感以上の違和感を感じた。


 幕僚の末席付近だが、そこにはマナトがいた。


 しかも、清々しいというか、誇らしいというか、初めて会った時とは全く違ういい表情をしていた。


 声を掛けたかったが、序列上、いきなり末席付近のマナトに話し掛けるのも躊躇われた。


「マナト、エリオ様を御案内しなさい」

 リンクはマナトに対して、そう命令した。


 そう言われたマナトは一歩前に進み出て、こちらを向いて敬礼をした。


 エリオは戸惑いながらサリオの方を向いた。


「行ってくるがいい」

 サリオはエリオに行くように促した。


 エリオはゆっくりと頷くと、マナトと共にその場を離れていった。


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