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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第1巻  作者: 妄子《もうす》
9.クライセン家の財政

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その7

 更に2週間後、エリオとマナトの活動は続いていた。


 活動が続いていたのは2人の情熱だけではなく、サリオを含む周りの理解があっての事だった。


「エリオ・クライセン様とお見受けします」

 エリオとマナトは街中で、後ろから声を掛けられた。


 エリオとマナトは驚いて立ち止まって、後ろを見た。


 2人の後ろには、はげ頭の初老の男が手もみしながら立っていた。


 東方商人クラセックだった。


 クラセックはこの頃から容貌が変わっていなかった。


 いや、エリオと関わりを持ってから段々と若返っていくようだった。


 それはともかくとして、この時、2人は初めて顔を合わせた。


「……」

 エリオは何も応えずに、クラセックをまじまじと見た。


 マナトの方もクラセックを観察し始めた。


 2人は一応警戒していた。


 どうやら、1人で、武器らしい物は何も持っていなかった。


 しかし、肉体は鍛えられており、取って付けた笑顔がどうも怪しかった。


 本人に言わせれば、取って付けているつもりは全くなく、精一杯愛嬌を出そうと努力しているらしい。


 この事は、後で、エリオが聞き出していた。


「左様ですが、あなたは?」

 エリオは観察の結果、害はないと判断してしまった。


「えっ!?」

 隣のマナトは絶句していた。


(エリオ様、誘拐犯だったらどうするのですか!!)

 マナトは急に焦り出していた。


 まあ、無理もない。


 王都の街は非常に治安がいいとは言え、狙われないという保証はゼロではなかった。


 エリオのお人好しの性格もあるのだが、人に対して警戒するという事はあまりないようだった。


 とは言え、先程はまじまじと見ていたので、少しは人間観察をしているようでもあった。


「東方商人のクラセックと申します。

 以後、お見知り置きを」

 クラセックは恭しく頭を下げた。


「で、何か、御用ですか?」

 エリオは驚きもせずに、ニコリとして聞いた。


 寧ろ、隣にいたマナトの方が先程から驚いていた。


 エリオの方は、クラセックの正体を予想していたのだろう。


(2人の間に割って入るべきか?)

 そんなエリオを他所に、マナトの方は焦りを感じていた。


 とは言え、この商人から殺気は感じられなかった。


 ただ、悪意はなさそうだが、胡散臭さは強烈に漂ってきていた。


「エリオ様達に役立つ物を我々の方で用意できると思います」

 クラセックは低姿勢で、持って回った言い方をしていた。


 だが、言っている事はより直接的であった。


 なので、マナトは思わず周りを確認してしまった。


 ここで、その話をするのは適当ではなかったからだ。


「そうですか。

 でも、ここではなんなんで、付いて来てくれます?」

 エリオはそう言うと、クラセックの返事を待たずに踵を返した。


 それを慌ててマナトが追った。


 全く動じていない10歳児に、マナトは改めて驚いていた。


 とは言え、マナトは既にエリオを10歳児とは思っていなく、敬愛する上官のように思っていた。


 エリオのカリスマ性が発揮されていると言いたい。


 だが、残念ながらサリオのようなカリスマ性は全く持っていなかった。


 サリオはそのカリスマ性によって、多くの人々を引きつける能力を有していた。


 そして、それによって、クライセン家を統括していた。


 しかし、エリオはそれとは明らかに違っていた。


 どちらかと言うと、分かる人には分かると言った感じのマニア向けの人材なのかも知れない。


 そのマニア性に惹かれたのが、違うマニア性を持つマナトだった。


 そして、この後、長い付き合いになるクラセックもマニアであると言えた。


 マニア同士は一度結束すると、その絆は強固な物である。


 まあ、要するに、団結したオタク仲間に変貌するのだ。


「ご同行させていただきます」

 クラセックは2人から少し離れながら続いた。


 ……。


 3人は無言のまま、歩いていた。


 まあ、話は別の場所に移してからと言う事なので、こうなっただけである。


 3人はそれ程遠くない場所の建物の中へと入っていった。


 カラン。


 入店を知らせる音が鳴り、しばらくして奥からワーグが出てきた。


「いらっしゃいませ」

 ワーグは愛想良く3人にそう言った。


 だが、内心は違ったであろう。


 それは、エリオ、マナトに加えて、クラセックがいたからに違いがなかった。


 要するに、物を買ってくれる客ではなかったので、厄介者達だとの認識から来るものだった。


「ワーグ、奥をお借りしてもよろしいですか?」

 エリオは、大人の思惑など関係ないような感じだった。


 子供である事も関係しているのだが、目的の為には小さな事には拘らない性格から来ているものだった。


「どうぞお使いください」

 ワーグは訝しがりながらもそれを表情に出さずに、快諾した。


 まあ、情報を得ていたので、エリオが何をしたいのかは想像が出来ていた。


「ありがとうございます」

 エリオはそう礼を言うと、早速奥へと歩みを進めた。


 それに引きずられるように、マナトが続いた。


 クラセックとワーグは初対面だったが、お互いの事は知っているようだった。


 クラセックは2人に続く前に、ワーグとお互いに軽く会釈をした。


 そして、その後に、2人に続いた。


 ワーグは3人を見送った後、やれやれといった感じの表情になった。


 奥の部屋に入った3人は四角いテーブルに着いた。


 配置は奥側にエリオ、その左手にマナト、右手にクラセックだった。


「早速ですが、どれくらいの量をどのくらいの期間で調達できますか?」

 エリオは席に着いた途端に、そう口を開いた。


 それに対して、クラセックはやや唖然とすると同時に、苦笑した。


「まずは、調達する物資のリストを頂かないと、何とも言えません」

 クラセックは苦笑後に、静かにそう言った。


 クラセックの言い分は尤もなのだが、演技めいていた。


 実際の所、エリオ達が何を求めているかは事前に調査していた。


 だから、接触してきたのだった。


 そして、それをエリオも勘づいていた。


 たが、それを問いただしても詮無い事など感じたエリオは、マナトの方を見た。


 マナトは、エリオに不満そうな視線を送りはしたが、やがて、筆と紙を出した。


 そして、ゆっくりとリストを作り始めた。


 カキカキ、スラスラ……。


 3人は何も喋らなかったので、マナトのリスト作りの筆音が部屋に響いていた。


 間延びした感はあるものの、探り合いの空気は依然と漂っていた。


「これがリストになります」

 マナトはそう言うと、書き終えた紙を向かい側のクラセックに渡した。


「ありがとうございます」

 クラセックはそう言うと、受け取ったリストをゆっくりと眺め始めた。


 ……。


 沈黙が再び訪れた。


 クラセックの返事待ちなので、エリオとマナトの視線は自然とクラセックに向いた。


 それを感じ取ってか、クラセックはしばらくリストを見たまま何もしなかった。


 マナトはそれを見て、眉間にしわを寄せて、あからさまに不満を表した。


 しかし、エリオの方は部屋に入った時と同様に、笑っているのか、無表情なのか、分からない表情を続けて、じっと待っていた。


(これが駆け引きというものなのだろうか?)

 エリオが思っている事も呑気そのものだった。


 そして、カードゲームを思い出していた。


 ポーカーフェイスというものなのだが、エリオ自身がそれを自覚しているという風ではなかった。


 その不思議な空気に押されたのか、クラセックは自分の想定より早く、筆を取り出し、リストに数字を付け加えた。


 カキカキ……。


 クラセックが書いている間、沈黙が続いていたので、やはり、部屋の中には筆音が響いていた。


 やがて、書き終わった紙をクラセックはエリオに渡した。


 エリオはそれを確認した後、すぐにマナトに渡した。


「調達量、期限共に、少し余裕を持たしています」

 クラセックは何も聞かれなかったので、何だか説明を付け加えなくてはならない気がして、そう言った。


 百戦錬磨であるという自負があるクラセックだが、明らかに妙な空気を感じていた。


 手玉に取られているという感じではなく、もっと異質な感覚だった。


「価格はどうなります?」

 エリオがマナトがこちらを見たのを確認した後に、そう聞いた。


 質問されると共に、マナトからリストが再びクラセックの元に戻された。


「そうですね……」

 クラセックはそう言いながら渡されたリストに再び書き込んでいた。


 今度は勿体ぶるという訳ではなく、すぐに書き込み始めていた。


 まあ、これは駆け引きというよりは普通の流れだろう。


「これで如何でしょうか?」

 クラセックはそう言いながら、書き込んだリストを再びエリオに渡した。


(やはり、調達先を増やせば、調達コストは下げられるのだな……)

 エリオはリストを確認すると、そう思った。


 そして、すぐにマナトへリストを渡した。


(だが、まだまだ高いな……)

 エリオはそう思っていた。


 マナトの方はじっくりとリストを確認していた。


 そして、マナトはエリオと同じ感想を持ったように不満げな視線をこちらに向けてきた。


 エリオはそれを見て、静かに頷いた。


 価格交渉の始まりだった。


 そして、10歳児の伝説がここから始まる。


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