白川郷の湯
キャンピングカーへ戻り、歩花は落ち着きを取り戻した。
「大丈夫か、歩花」
「もう大丈夫。それより、お風呂入りたい」
「おぉ、そうだったな。近くに『天然温泉・白川郷の湯』があるから、そこへ行こう」
「うん!」
飛騨さんにも声を掛けると、エフリイで連れていってくれるということでお邪魔することに。
「車を出してもらってありがとうございます、飛騨さん」
「いいんだよ。回くんと歩花ちゃんといられるのも、あと少ししかないし」
急遽、予定を変更することになり飛騨さんの案内も今日で終わり。非常に惜しくもあり、残念だが致し方ない。
飛騨さんは軽バンを走らせる。
五分ほど真っ直ぐ進むと温泉が見えてきた。
なんだか昭和初期の学校みたいな外観だ。二階建ての木造で古臭さもあるけど、それがまた味があって良い。正面には『白川郷の湯』の看板と暖簾が掲げられている。
「へえ、天然温泉なんですね」
「そうだよ、回くん。関節痛、筋肉痛、神経痛に効くって有名だよ」
車から降り、そのまま温泉へ。
料金は大人700円か。良心的だ。
宿泊できたり食事処もあるようだ。
へえ、充実しているんだな。
入浴券を購入し、受付へ。
「じゃ、またあとで」
歩花と飛騨さんは女湯へ――って、歩花! 毎度なら俺についてくるし!
「お兄ちゃん、歩花も一緒に」
「おいおい、歩花。そのくだりは一度やっているだろうがっ! 大人しく女湯へ行ってくれ。飛騨さんも困っているだろうが」
「はぁい」
素直に飛騨さんのところへ向かう歩花。さすがに女子高生が男湯に入ったら大事件すぎるって。
歩花がちゃんと女湯へ向かったことを確認し、俺は男湯へ。
思った以上に綺麗で清潔感のある温泉だ。
最近出来たばかりのような内装で、屋敷のような美しさや気品があった。時間帯のせいか他の客もそれほどいなかったし、極楽。のんびり温泉を堪能しまくった。
ふぅ、疲れきった体が癒えたなぁ。
ずっと運転ばかりしていたからな、肩凝りが酷かったんだ。
◆
温泉を出て、歩花と飛騨さんと合流。
「どうだった、温泉」
「最高だったよ、お兄ちゃん」
「やっぱりここのお湯は最高だよ」
二人とも満足そうな笑みを浮かべていた。
やっぱり温泉は良いものだ。
身も心も洗われる。
気分がサッパリしたところで道の駅へ戻った。
虫の鳴き声が静かに響く。
満天の星空が夜空を照らす。
この景色はずっと変わらない。
「ありがとうございました、飛騨さん」
「私も楽しかった。また明日ね」
ほんの少し寂しさをにじませて飛騨さんは、空を見上げる。
「あ、流れ星」
歩花が瞳を輝かせ、なにかを願う。
飛騨さんも同じようにしていた。
少しして、飛騨さんと別れ、俺と歩花はキャンピングカーへ。
車内をベッド展開にして寝られるように変えていく。
「今日は暑いだろうから、ルーフで寝るといい」
「え~、お兄ちゃんと一緒がいい」
「就寝時は、さすがに冷房を切るぞ。電力にも限界があるから、汗掻くかも」
「だ、大丈夫だよ。歩花は気にしないし……!」
俺と一緒に寝たい一方で、汗臭くなるのを気にしている歩花。そんな無理することもないんだがな。
「とはいえ標高のある場所だから、それほど暑くもないか」
「そうだよ。大丈夫大丈夫」
「まあいいか、歩花を抱いて寝るの最高だし」
歩花を抱き寄せ、俺は横になった。
相変わらずモチモチ肌でほんのりと石けんの匂い。歩花も本気で抱き着いてくるから、俺の体に歩花の胸が接触する。相変わらずデカい。
「ん、お兄ちゃんと抱き合えて幸せぇ」
「今日一番の笑顔だな、歩花」
「この時が一番……」
気づけば、歩花はもう寝ていた。早いなっ。
俺も寝よう。
明日には『静岡』に向かわねばならない。
このことを紺たちにも知らせないと。




