出発! 車中泊生活の予感!?
即仕度を済ませ、玄関へ向かう。
扉を開けた先には椎名先輩が「はろはろ~」と謎の挨拶をして出迎えてくれた。
「おはようございます、先輩」
「おはようございます、椎名さん」
俺と歩花は同調して挨拶を返す。
「お待たせ~、何とか徹夜で間に合わせたわ。だから、柚っちはこれないけど無事に『インディ272』の納車しにきました」
目の前には確かに軽キャンピングカーが停まっていた。あれこそ、歩花からプレゼントしてもらった車だ。
「こうして外に出すと迫力が違いますね」
「でしょでしょ。駐車場は直ぐそこでいいんだっけ」
「はい、ちょうど一台分空いているんで、そこで頼みます」
先輩に改めて駐車場に停めてもらった。大量の荷物を入れなきゃいけないし、助かる。
「これでインディの引き渡しは完了よ。回くん、歩花ちゃんこれから出るの?」
俺と歩花をに視線を送る先輩。
「ええ、既に紺が長野に向かっているんで」
「ああ、あの子か。本当にバイクで?」
「はい、今朝ラインが入っていましたから本当です」
「す、すごいバイタリティね。まあいいわ、あたしは回くんも歩花ちゃんも、紺ちゃんも応援している。がんばってね!」
先輩は、サムズアップして更にウィンクをくれた。か、可愛いなこの人。
「はい、ラインとかしますよ」
「うん、楽しみにしている。それじゃ、あたしは電車で帰るので」
ばいばーいと元気よく手を振って先輩は去っていく。明るくて頼りになる先輩だ。あの人がキャンピングカーの娘で良かった。気持ち良く買い物できたし、本当に三日で納車された。アマズン風に言えば★★★★★だねっ!
「歩花……」
「お兄ちゃん……」
お互いに向き合って、目を輝かす。
まるで子供の様に燥いで抱き合った。
「やったなあ!!」
「うんうん! やっとキャンピングカーをゲットしたねっ!」
思えば、宝くじが当たらなければ、こんな立派な車なんてとてもじゃないけど買えなかったわけで……歩花に感謝しかない。
「よし、まずは中へ入ってみよう」
車の鍵はさっき受け取った。
さっそくサイドの扉へ向かう。バスのような出入口がそこにはあった。鍵を回して開錠。オープン!
「「おぉ~~!!」」
カーショップでも内装は見たけど、改めて自分のモノとなると違うな。この空間が俺と歩花だけのものとなったんだ。
「すご、こんな広かったっけ!?」
ばたばたと燥ぐ歩花。
テンション爆上げして椅子に座った。俺も隣に座る。……おぉ、スペースには全然余裕があるな。
「時間も惜しいし、さっそく荷物を入れるか」
「うん、玄関から持ち運ばないとねっ」
大体、三十分は掛かるだろうし、直ぐ実行だ。
――三十分後。
「……こんなところかな」
「終わったねー。汗掻いちゃった……」
まだまだ真夏。
こんな炎天下で作業すれば、汗が滝のように流れた。しかし、風呂に入っている暇はないな。
「歩花、今は我慢してくれ。夜には温泉に入ろう」
「温泉! ううん……でも、汗臭いのやだなー…お兄ちゃんに嫌われたくないし」
「いやいや、歩花はいつも良い匂いだよ」
「そ、そう?」
まあでも、歩花も年頃の女の子。
ならば良いアイテムがある。
「そうだ! 体拭きシートを使うといい。車中泊・災害時の必須アイテム。使い捨てで体を拭けるし、便利だぞ」
「それいいね! うん、今はそれで我慢しておく」
ちょうど手元にあったので手渡した。居住エリアに入ってもらい、そこで体を拭ってもらった。俺は、その間に運転席周りをチェック。
「へぇ、こっちはトラックだな。オートマだから運転は楽。ナビもあるし、おぉ、バックミラー型のドライブレコーダーもばっちりじゃないか。
おほぉ! オービスの探知機もついてらあ!」
俺は、歩花の準備が終わるまでにアクションカムを取り付けたり、更にタブレットをつけたり作業を進めた。
「お兄ちゃん、こっちはオッケーだよ~」
「おぉ、待っていたよ。荷物は全部積み込んだ。リアボックスにもかなり詰め込んだし、そろそろ出発だな。歩花、助手席へ」
「は、はいっ……」
緊張を露わにしながら助手席に乗り込む歩花。シートベルトをして貰ったし、これでもう後は出発だけ。
「お金はたくさん持ってきた。お財布は大丈夫だ。あと足りない物は現地調達していこう」
「了解だよ。……あの、汗臭くない!?」
まだ気にしていたのか!
「大丈夫だよ。それより暑いから、エンジンを掛けて冷房かけるぞ」
「う、うん」
エンジンスタート。
激しく唸る車体。
エアコンをつけて、涼しい風を循環させる。あとはアクセルを踏むだけ。
「出発する。歩花、最高の旅にしような」
「お兄ちゃんとの車中泊生活、すっごく楽しみ。いっぱい、えっちな事しようねっ」
「ちょぉー!!」
突然の歩花の発言に俺はハンドル操作を間違えそうになった。あっぶねー!
「ご、ごめんね。でも、この旅でお兄ちゃんを絶対に落とすから」
「お、落とすって……別にライバルなんていないだろ」
「いるもん……負けられない強敵が!」
はて、そんな敵がいたっけ。
今は二人きりだし――お?
なんか電話が掛かってきた。
出てみると『紺』だった。
『もしもーし、二人とも元気ですかー!?』
「紺、電話大丈夫なのか?」
『走行中ですけど大丈夫です!』
「走行中って!」
『回お兄さん、慌てすぎ。あれですよ、ピンマイクを繋げているんで喋れるんです』
なるほど、マイクをつけていたのか。だから走りながらも会話可能なわけか。
「紺ちゃん、今どこなの?」
「お、歩花ちゃん! うん、もう直ぐ『韮崎』の道の駅。どう、凄くない!?」
「え、韮崎ってどこぉ?」
歩花は分かっていないようだけど、俺は知っていた。もう片道100km以上、二時間以上を走行したのか。凄すぎるな。
これは追い付かないとだ。
「それじゃ、紺。こっちも向かうから」
「分かりました! 一度切りますね。また電話します」
そこで電話は切れた。
よし、まずは高速道路を目指す。
俺はゆっくりとインディ272を走らせはじめた。




