表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義妹と旅する車中泊生活  作者: 桜井正宗
キャンピングカー購入編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/132

甘い声

 六億円。

 現実味の無い金額に、俺は感覚が麻痺(まひ)していた。……六億円、六億円。本当にそんな額が貰えるのか?


 今までどんなに多くても三十万円を手にしたくらいだ。汗水垂らして半年働いて手に入れたお金だった。それは、免許取得の為に現金一括払いした時。


 あんなに辛かったのに、それがこんなにアッサリ。ただの宝くじ券(かみきれ)が『六億円』になってしまった。あぁ、どうしよう……狙われたりとか――いや、取り乱すな俺。まずは、この宝くじ券を失くしたり、()らしたりしないようにクリアファイルに入れておこう。万が一があったら、一生後悔する。



 アツアツのお茶を()れ、冷静になろうとした。――途端(とたん)、手が震えてお茶を零してしまう。



「うあ、あっぶね!」



 危うく六億円がパーになるところだった……。ふぅ、ギリギリセーフ! 汗を拭っていると、歩花が胸を弾ませて帰ってきた。


「お兄ちゃん、ただいま~」

「早かったな」

「ん? もう十五分くらい経ったけど」


 ――いつの間にかそんなに時間が経過していたのか。悩み過ぎて時間を気にしている余裕がなかったな。



「それで、孤塚ちゃんは?」

「うん、帰ったよ。今度、お兄ちゃんにバイクを見て欲しいって」

「あー、そうだったな。また次回、見せてもらおう」



 孤塚(こづか) (こん)、か。

 落ち着きのある可愛い子だったなぁ。清楚(せいそ)というか、可憐というか。歩花とはまた違った華やかさがあった。品があったし多分、イイとこのお嬢様なんだろうな。


「ところでさ、お兄ちゃん」

「ん? どうした」

「宝くじって、どうやって換金するの?」


 肝心(かんじん)な事を忘れていた。

 スマホでサクッと調べると、どうやら宝くじ売り場に行く必要があるらしい。一度、機械に通し、当選金額が五万を超える場合は、明細書を貰って銀行へ行くように指示されるようだ。そういう手続きがあるんだな。


 まだ時間もあるし、紛失しない内に売り場へ行こう。


「――というわけらしい。歩花、今から行くぞ」

「善は急げってヤツだね。分かった、準備してくるね」

「了解。俺はリビングで待っているよ」



 歩花は、自室へ戻った。

 俺は手提(てさ)げバッグを取りに行った。宝くじを厳重に保管する為だ。きちんとしておかないと危険すぎるな。念の為に印鑑も入れておく。



 十分後、玄関前で待っていると可愛いワンピースに身を包む歩花が登場した。ちょっとゴスロリっぽい雰囲気。


「どお、お兄ちゃん。可愛いでしょ」


 黒いドレスようなワンピースが風に舞う。歩花は、あざとく微笑み手を広げた。なんと天真(てんしん)爛漫(らんまん)。こんな可愛い女の子が俺の妹とか、夢でも見ているような気分だ。


「うん、歩花。今の俺、すっごくドキドキしている」

「お兄ちゃんの心に刺さったようで良かった! じゃあ、行こっか」


 家を出て、宝くじ売り場を目指す。

 ……目指すのだが、何だこの感覚。周囲の人間が全員、敵に見える。……やばい、謎の不安が襲ってきやがった。


 なんでこんなに汗を()いているんだ、俺。……ああっ、まさか! 手提げバッグに入っている宝くじ券のせいか……。そうだ、これを狙われないかと疑心暗鬼に(おちい)ってしまっているんだ。


「ううっ……」

「ど、どうしたの?」

「歩花、小声で話すから耳を貸してくれ」

「う、うん」


 俺は歩花の耳元に顔を近づけた。

 歩花は“ぴくっ”と肩を(すく)ませ、何故か恥ずかしそうに(うつむ)く。あれ、なんか息遣いが荒いような? ま、まあいいや。


「あのな、歩花。今、宝くじ券を持っているだろ。これが狙われないかと心配でな」

「そ、そうだね。六億円だもんね、怖い……」


 他人に気づかれた時のリスクがデカすぎるな。下手すりゃ強盗に遭うかもしれない。歩花だけは絶対に守らないと。


「とはいえ、宝くじ売り場へ行かないと換金はできない。向かうしかないな」

「そうだ! 歩花がお兄ちゃんを落ち着かせてあげる――きゃっ!」


 歩花は手を繋ごうとしたのだろうか。けれど、足を滑らせた。俺は、咄嗟(とっさ)に歩花の手を引っ張り手繰(たぐ)り寄せようとしたのだが、バランスを崩す。


「うわっ!」

「あ、あぅ……」


 俺の顔面が柔らかい物の中に落ちる。……えっ、これって。この弾力あるのものは何だ――?


「……うん? ううん?」

「んんっ……お、おにいちゃん、だめぇ」


 歩花はなぜか甘い声を漏らしていた。

 まずいと思って、俺は離れた。


「すまん。何かにぶつかった気がするんだが……視界が暗転して全く分からなかった。俺はいったい、歩花のどこに顔を埋めていたんだ……?」

「き、気にしなくていいよ! それより、わたしの方こそごめんね。手を繋ごうと思ったの」


 震えながら歩花は、俺の手を取る。

 な、なんか凄く緊張するな。

 やがて、細くて小さい手が(から)む。


「あ……歩花。お前、手が小さいなぁ」

「お兄ちゃんは、大きくてたくましいね」


 そんなこんなで売り場へ向かう。

 手を繋ぎながら歩くと、意外や落ち着けた。歩花がいて良かった。もし、一人だったらしばらくは外なんて歩けそうになかった。


 売り場に到着し、人のいないタイミングを見計らって窓口へ。宝くじ券を取り出し、店員のおばちゃんに頼んだ。


「はーい、くじ券、一枚お預かりね。ちょっと待って下さいね~」

「は、はい」


 少しすると、券が機械に通っていく。すると、ディスプレイに【高額当選】の文字が表示された。おばちゃんは、びっくりしていた。



「おめでとうございます! 高額当選ですね~。わぁ、一等じゃないですか! ろ、六億円……凄いですね、お兄さん!」

「あ、ありがとうございます。これから、どうすればいいんです?」

「ええ。お客様は百万円を超える当選金額ですので、印鑑と本人確認書類、そしてこの宝くじ券と明細書を持参して戴き『穂住(ほずみ)銀行』へ行って下さい。事務所に通されますので、そこで手続きを行います」


 へ、へぇ~…分かってはいたけど、なんか凄い事になったな。宝くじ券と明細書を貰い、手提げバッグへ閉まった。次は銀行か。



「よ、よし。穂住銀行へ向かうぞ。けど、隣町なんだよなぁ」

「印鑑はあるの?」

「ああ、バッグに入れておいた。本人確認書類は、免許証があるし大丈夫だろう」

「準備万端だね。それじゃあ、電車で?」


「いや、せっかくだ。カーシェアリングで行こう」

「やったー! お兄ちゃんの運転大好きっ」


 歩花が抱きついてきた。まさか、こんな喜んでくれるとは。俺の運転が好きとか、嬉しい事を言ってくれる。


 なら、ドライブがてら向かうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続きが読みたいと感じたら『★★★★★』をお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ