表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義妹と旅する車中泊生活  作者: 桜井正宗
番外編C

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/132

義妹の諦めない心

『――ガシャン』


 原付バイクが横倒しになり、歩花もその場に転倒した。

 その瞬間、俺は青ざめ……全身が凍り付いた。


 ・

 ・

 ・


【3時間前】


「お兄ちゃん、わたし……原付バイクに乗ってみたい!」



 歩花は、そう唐突(とうとつ)に切り出した。

 八月の旅が終わって、秋が終わろうとしていた十月半ばの肌寒い時期。

 確かにバイクシーズンには丁度いいタイミングだ。


 だけど、高校生である歩花にはまだ早いし、免許も取れないはずだ。――いや、ちゃんと申請すれば取らしてはくれるだろうけど。

 紺が所持しているからな。



「危険だ。てか、なんで?」

「だって、紺ちゃんが羨ましいんだもん」



 やっぱり、親友の紺の影響か。

 少し前に『特定小型原動機付自転車』を買ったが、そちらでは満足できないらしい。という俺も、危険があると感じて使用を断念していた。あれは走る危険物だ。



「むー。しかし、いきなり乗りたいと言われても――」



 リビングで困り果てていると、俺のスマホが鳴った。


 画面には【紺】の文字。


 このタイミングで電話とはな。



『――回お兄さ~ん、お暇ですか~?』


「ちょうどいい、紺。歩花が原付バイクに乗りたいってさ。なにか方法がないかな」


『へえ? そうなんですか? では、近所にあたしの所有するサーキットコースがあるので、そこでどうです?』



 サーキットを所有している――!?


 さ、さすが金持ちのお嬢様は桁違いだなぁ、オイ。


 なるほど、確か完全な私有地だとかサーキットでの運転なら『合法』だったな。



「いいんだな」

『ええ、いいですよ。住所を送るので、そこへ来てください』


「了解。じゃ、後で」



 俺は電話を切った。

 歩花は隣で聞いていたようで、嬉しそうに俺に抱きついてきた。シャンプーの香りがイイ匂いだ。



「わーい、お兄ちゃん。ありがとぉ」

「運よく紺から電話が掛かってきたからな」


「お礼にちゅーしてあげる」


「まだ早いって」



 そう言いながらも俺は嬉しかった。



 ◆



 ――到着。


 ジャージ姿の歩花と共にコースを眺める。

 指定のサーキットは、小規模なものの十分な広さがあった。てか、この相模原市にサーキットが存在していたとは。



「いらっしゃい、お兄さん。歩花ちゃん!」



 可愛らしい私服姿の紺が俺たちを歓迎してくれた。

 少し後方には専属執事のアルフレッドさん。ばっちり執事服で、髪型もオールバックが決まっている。相変わらずカッチョイイというか、イケおじすぎる。



「バイクの方、準備が整いました」



 アルフレッドさんが声を掛けてくる。

 コースには標準的なスクーターバイクがあった。……おぉ、あれはYAMANAのショグか。めっちゃスタンダードなヤツ!



「こ、これが……」

「歩花ちゃん、ビビってるね~!」



 バイクを目の前にして、なぜか震えあがる歩花。その隣で紺が面白おかしそうに煽る。


「大丈夫か、歩花。やっぱり、やめておく?」

「ううん、ここまで来たんだもん。諦めないよ」



 乗る気はあるらしい。

 しかし、そのままではケガをする恐れがある。

 というか、そんな未来が俺には見えていた。

 まだ乗ったこともないだろうからな……アクセル全開にして、どこかに衝突(ドカン)なんてありえる話だ。



「これを使って、歩花ちゃん」



 紺はプロテクターを取り出した。


 なるほど、バイク用のプロテクターか。しかも、フル装備じゃないか!

 肩、腕、胸、膝とそれぞれあった。


 あとヘルメットもフルフェイスだ。


 安全第一で助かるぜ。



「こ、こんなにー!?」

「当然だよ。はじめてだから」


「そ、そうだね……うん、つけてみるね」



 歩花は、紺の助けを借りながらもプロテクターをつけていく。どんどんゴツくなっていく。……大丈夫かな、これ。



「完成っと」


「お、おも……い」


「ちょっとキツいかもね。でも安全の為だから! さあ、バイクに(またが)って」

「う、うん」



 それから、バイクの説明がはじまった。

 キーを回し、あとはブレーキを握りながら――エンジンスタートのボタンを押す。その瞬間にはエンジンが始動。



「あとは右ハンドルのアクセルを開けて――」

「こう、かな」



 その時、バイクが急加速して『ギュルルルル、ギュゥゥゥン』とマッハで走り出した。



 ――ってうおおおおおおおおおおおい!!



「歩花あああああああああああああああああ!!」



 ◆



 幸い、歩花は無事だった。

 衝突した先には大きなマットの壁があって、助かったんだ。


 アルフレッドさんが設置しておいてくれたらしい。運がよかったな。



「…………うぅ」

「ケガがなくてよかったよ」


「怖かったー…」


「どうする? やめるか?」

「ううん、まだ続けるよ。だって、原付の免許欲しいもん」


「なぜ、そんなこだわるんだ?」

「お兄ちゃんも取ってたから……。歩花も取りたいなって」



 そ、そうだったのか。

 確かに、俺は原付免許から取って普通免許も取得した過去がある。なるほど、歩花も俺と同じように道を歩んでいきたいわけだ。


 そりゃ、めちゃくちゃ嬉しいね。


 ならば、取ってもらうためにも俺も歩花を支えなきゃ。



「よーし、乗れるように徹底的に指導するぞ。紺と共にな」

「ええ、回お兄さん。歩花ちゃんを進化させましょう!」



 腕をまくる紺。

 今度はちゃんとまっすぐ走れるように、徹底的に知識を叩き込むつもりのようだ。



「え、二人とも……なんか顔が怖いよ?」



「安全に乗れるようにするためだ」

「歩花ちゃん、覚悟はいいかな~!?」



「え、え……ええええええッ!?」




 一時間後には、歩花はサーキット内をまともに走れるようになっていた。


 意外と才能があったようだな。

 いつかツーリングするのもいいかもしれないな。


 それこそ『北海道』で――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続きが読みたいと感じたら『★★★★★』をお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ