北海道へ行きたい義妹
「春夏冬さん――春夏冬 歩花さん」
病院の受け付けの待合室。
歩花の名前を呼ばれ、ついにこの時を迎えた。
信じられないほど顔を青くする歩花。その手は震え、絶望感しかなかった。
「…………」
「大丈夫だよ、歩花。すぐ終わる」
「で、でもぉ……」
泣き出しそうなほど涙目になる歩花。
気持ちはすごくよく分かる。
だが、しかし乗り越えねばならない――。
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季節は十二月。
いよいよ気温も本格的に下がり始め、少し吹雪き始めた頃。
クリスマスも見えてきたような季節。
突然、歩花は深刻な表情で俺に告白してきた。
「……あのね、お兄ちゃん」
「ん? どうした。なんか暗いぞ」
「歯が痛いの……」
「へ」
「虫歯かも」
「マジか。見せてみ」
だが、歩花は恥ずかしそうに拒絶。いやいや、見ないと分らんって。
なんとか説得して、俺は歩花の口を開けさせた。
まあ、確かに女の子の口の中をジロジロ見るものではないな。だが、大切な義妹の体調管理も兄としての務め。
それに、歯はとても大切だ。
ボロボロになってからでは、取り返しがつかない。
「…………わかった」
ついに、歩花は口をあけた。
俺は歯をチェックした。
普通に見ている分は、白くて綺麗な歯だったが――おや。
奥歯というか、これは“親知らず”だな。
その部分だけ虫歯が出来ていた。
よくある症状だな。
「親知らずだね」
「え、親知らず?」
「簡単に言えば奥歯。正式名称は第三大臼歯っていうらしい」
不要な歯だから抜く人が大半だ。という俺も、随分と前に下の親知らずを手術して抜いたっけな。
「抜くしかないな」
「えー…やだよぅ」
「大丈夫だよ。ちゃんと麻酔をしてもらえるし」
「やだやだ! 怖いもん!」
「俺がついていってやる」
「…………むりぃ」
頭を抱え、とうとう逃げ出す歩花。めっちゃ怖がってるな。
という俺も死ぬほど怖かったけどな。全身麻酔だったけど。
あ、そういえば全身麻酔といえば一瞬で眠ってしまったなぁ。妙に気持ち良かったのを憶えている。気づけば一瞬で終わっていたが。
さてはて、どうしたものかね。
【一週間後】
なんとか説得して、歩花を歯科医院に連れていくことに成功した。
無事に抜けたら、北海道に連れていくと約束したんだ。
どうやら、歩花は函館だとか、五稜郭を見て回りたいようだ。
という俺も興味はあったが。
「がんばれ、歩花」
「う、うん…………行ってくるね」
そして、ついに歩花は乗り越えた。
三十分後には無事に戻ってきた。
「よ、歩花。生還したな」
「…………」
ショックを受けているのか、歩花は呆然としていた。ですよね。
「どうだった?」
「地獄だった…………」
俺は全身麻酔だったから分からなかったけど、普通に抜く場合は、意識がある状態で物理的に抜くようだからな。もちろん、麻酔はするけど。
「ペンチみたいのでグイグイ?」
「……うん。あんなの聞いてないよぅ!! ぐいぐいやられて死ぬかと思った!」
「でも、これでサッパリしたな」
「うん。もう大丈夫だと思う」
一気に二本いったようだから、もう無事のようだ。幸い、下の方は抜歯の必要はないらし。幸運だったな。
さて、こうなると約束通り『北海道』へ旅へ行かねばならない。
冬休みを利用して旅行をしてみようか。
網走監獄は見てみたいな。
◆短編完
北海道編もいつかやります!




