間違いが起きてしまう予感 Part.2
紺は、俺の腰の辺りに顔を落とし、ベルトをガチャガチャと――って、イカン!
「ス、ストップ!」
「大丈夫ですよ。あたし、お兄さんのことを好きですから」
「そ……それは嬉しいけど、いきなりすぎるって」
「ひと夏を一緒に過ごした仲ではありませんか」
微笑む紺は、めちゃくちゃ可愛かった。
正直、この笑顔には負ける。
だが、このままではあまりに危険すぎる。いろいろと。
「ちょ、まってくれ。飛躍しすぎだ……落ち着いて」
「だって……夏の旅行では告白もできなかったら」
そうだったか? 結構それっぽいこと言われたような。でも、そうだったのか……紺がそこまで俺を想ってくれていたとはな。
気持ちは嬉しいが、俺には歩花がいるからなぁ。とはいえ、紺を雑に扱いたくもない。俺にとっても紺は大切な女の子だ。これからも仲良くしたい。友達として……。
だから俺はウソ偽りのない気持ちを打ち明けることにした。
「すまん」
「分かってます」
「え」
「回お兄さんは、歩花ちゃんが好きなんですよね。義理の妹だし」
「そ、それは……ああ、そうだよ」
「でも関係ありません」
「へ」
「あたし、回お兄さんの“愛人”になります……!」
目がマジだった。
って、愛人だってぇ!?
紺がそんな関係を望むとは! なかなかハードルが高いというか、ドロドロの爛れた関係になって危険が多すぎる気が。
いや、無理だ。歩花が包丁で襲ってくる場面しか浮かばない。
きっと俺は殺される。
うむ、無理だ。
「それも却下だ」
「歩花ちゃんが怖いんですね」
「そりゃな」
「なら、あたしが説得します」
「難しいと思うけどな」
「そうでしょうか。意外と許してくれるかもしれませんよ?」
包丁が出てくる未来しか浮かばない。
紺の命すら奪いかねんぞ。そうでなくとも、発狂はしそうかも。……まあ、さすがに友人の紺にそんなことはしないと思うけれど。
「がんばってくれ。俺は関与できん」
「ですよね。分かりました! あたし、がんばるので」
そう言いながらも、紺は俺から離れた。
テーブルにあるティーセットに手を伸ばし、香りのいい紅茶を淹れてくれた。
ようやく一息つけそうだな。
席に案内され、俺は着席。
なんだか異世界の貴族みたいな気分だ。
「美味しいよ、紺」
「回お兄さんの口にあってよかったです」
微笑む紺も楽しそうに紅茶を楽しむ。
こうしている彼女は、お嬢様にしか見えない。きっと性格が物静かだったのなら、おしとやかで誰もが憧れる令嬢だったろうな。
俺は明るい紺の方が好きだけど。
「夏は楽しかったな」
「そうですね、またどこかへ行きたいですね」
「紺も次は車で来るといい」
「はい。もう直ぐ三年生ですし、普通免許も取れますからね」
季節は二月半ば。
もうすぐ歩花も紺も進級する頃だ。
高校三年生も見えてきたな。
いよいよ就職だとか進学だとか、紺が言うように普通免許を取得する人も現れる頃合いだ。
とはいえ、高校生の間は運転はできないが。
「卒業してからだね」
「それまではハンタークロスカブでがんばりますっ」
紺の愛車のカブ。あれはいいものだ。
最強の燃費だけでなく、とにかくカッコいい。フォルムがいいよな、フォルムが。
原付二種だから税金やら安上がりだし、スピードが出せるなどメリットが大きい。俺も小型二輪の取得をちょっと考えている。
だが、軽キャンピングカーを持っているので……あんまり乗る機会もないかもしれない。
「ああ、来年も夏がある。今度は北海道か四国一周でも考えてみるか」
「九州もいいかもですね!」
「そうだな。プランを練ってみるか」
「ええ。実はその為に呼んだんですけどねっ!」
そういうことだったのか。
最初のアレは、あわよくば俺とシたかったってことだろうか。とりあえず、今は有耶無耶になったので、このままにしておく。
「それじゃ、候補を挙げよう」
「あたしはですね――」
今年の旅行プランを計画していく。こういう時も楽しい。
俺も行きたい場所をいくつか提案。
心霊スポット巡りもどうだろうかと、違った趣向で話してみた。紺は「それもいいですね」とテンションを上げていく。
そして、しばらくすると歩花から連絡が。そろそろ来るらしい。
もう少ししたら三人で話し合おう。
- 間違いが起きてしまう予感・完 -
◆いつもありがとうございます
番外編は、また不定期にやります!




