間違いが起きてしまう予感 Part.1
【狐塚家】
歩花の親友である女の子『紺』の家に招待され、俺はひとりで向かった。
肝心の歩花は、何か用事があるとかで来られなかった。
が、あとで合流するとのことだった。
なので俺は、ひとりで狐塚家の前に来たのである。
「いらっしゃいませ、春夏冬 回さま」
渋い顔と声、そして鷹のような鋭い目つきで俺を歓迎する眼帯執事。
彼こそは狐塚家の執事アルフレッド・スナイダーだ。
夏休みに俺たち――というか、紺と共に行動していた元軍人の執事だ。
「久しぶりですね、アルフレッドさん」
「回様もお元気そうでなによりです」
「元気だけが俺の取柄ですからね」
「それは素晴らしいことです。健康がなにより。……ああ、そうでした。紺お嬢様が寂しがっておりました」
夏の旅が終わってからは、遊ぶ機会が減っていた。
歩花と紺は高校生だからな。授業だとかテストだとかで忙しいのだ。
とはいえ、たまに家に遊びに来ていたけどな。
でも、確かに最近は遊んでいなかった。
それに、こうして俺から紺の家に来たのは初めてだ。
こんなバカデカイ豪邸とは……いや、思ったわ。
イカツイ執事を従えているお嬢様だからな。
俺の記憶が確かなら、キャンプ用品を扱っている『スノーパーク社』の令嬢のはず。
「それは申し訳ない」
「いえいえ、こうして来られたのでお嬢様もお喜びになるかと。では、こちらへ」
中へ通されると、すぐに犬が駆け寄ってきた。……デカッ!
あれはもしかして。
その犬は俺に飛びついてきた。
「うおっ!?」
「これは失礼を。お嬢様の愛犬ジャーマン・シェパードのフォックスでございます」
「フォックスって……狐かな」
つか、他人の俺でも大歓迎じゃないか。
吠えることなく、警戒心ゼロ。
ここまで大人しいというか、甘えてくると……可愛いな。
じゃれていると、奥から少女が現れた。すっげぇ美少女だった。
「あれ、回さん? いったい、ここで何をしているんですか?」
む?
このワンピース姿の少女、なぜ俺のことを――って、まさか!
「紺、なのか?」
俺は恐る恐る確認した。
すると。
「そうですけど」
本人であると断言したのである。マジかよ!
いつもと雰囲気違いすぎて分らんかったぞ。
家では、こんな清楚系美人だったとはな……。
「か、可愛いな」
「えっ……! う、嬉しいですっ」
頬を赤くする紺。可愛すぎてビビった。
いや、紺は元から可愛いが――今日は更に上をいった。これはトンデモナイ破壊力だ。
可憐すぎて俺の心臓がキュンとしたね。
「……さ、さて。遊びに来たわけだが」
「そうですね。こちらへ」
紺の部屋へ案内してくれるようだ。犬をアルフレッドさんに任せ、移動を開始。長い廊下を歩くと、部屋に到着した。
デカい扉を開けると、そこは――。
「広っ! これが紺の部屋……?」
「そうですよ、回お兄さん。ここがあたしの部屋ですよ~。どうぞ自分の部屋と思ってくろいでください」
……広すぎんだろう。
テニスコートくらいはあるんじゃないか、これ。
立ち尽くしていると、紺が抱きついてきた。
「!?」
「回お兄さん、来てくれてありがとうございます。嬉しいです」
「お、おう。俺も紺の家に来れてよかったよ」
「こ、このまま回お兄さんと間違いが起きてもいいですよね……!?」
「え」
「歩花ちゃん来る前にシちゃいましょ……!」
「ええッ!?」
どうしてこうなった!?




