特定小型原動機付自転車
「春夏冬さん、手続きが完了しました」
役所のお姉さんは『ナンバープレート』をくれた。
俺はそれを受け取り、駐車場に停めてあるインディ272へ乗り込んだ。
運転席へ乗り込むと、助手席には暇そうにスマホを弄る歩花の姿があった。随分と待たせてしまったな。
「お待たせ」
「おかえりなさい、お兄ちゃん。暇だったから、SNSでまたえっちな写真をアップしちゃった」
と、歩花はスマホの画面を見せてきた。
顔こそ映っていないが、胸元だとか腕、足など大胆だ。こ、これはけしからん!
さすがのSNSもセンシティブ扱いにしかねんぞ、これは。
「ほどほどにしておくんだぞ、歩花」
「うん、大丈夫」
本当かなぁ。
兄であるからこそ、心配になるんだけどね。
「さて、河川敷へ行くか」
「ナンバープレートを取り付けるんだね」
「そうだ。取り付けて、電動自転車に乗ってみる」
最近流行りの電動キックボードだとかの類だ。今回、俺は電動自転車を選択。
区分的には『特定小型原動機付自転車』である。
原付の下位互換みたいなものだな。
免許不要で乗車可能。
速度は20km/hが限界だけど、フル電動なので漕ぐ必要はない。
電気の力で動くので燃料の補給は不要。
自転車型の電動自転車を二十万円ほどで購入。
それにナンバープレートを取り付ければ、無事に乗ることができるわけだ。
「普通の自転車と違うんだね」
「そそ。フル電動だから楽だぞ~。歩花でも乗れるし」
「へえ! 紺ちゃんはカブに乗っているから羨ましいと思ってたんだよね。歩花も乗ってみたい」
「もちろんだ。河川敷で練習しよう」
さっそく、 軽キャンピングカーを走らせて河川敷へ。
到着後、後部座席にある電動自転車『ライトニング』を降ろした。そして、俺はナンバープレートを取り付けた。工具でサクっと。
「完成?」
「ああ、歩花。まずは俺が試乗する。ヘルメットは不要なんだが、一応安全に考慮してつけておく」
「え、それって帽子だよね?」
「見た目はただの帽子だが、実はインナーヘルメットが仕込んである」
「え、すごー! 固いのが入ってる~」
帽子の中身にポリエチレンのインナーが付属。なかなか強度があるので、ないよりはマシな程度で頭部を守ってくれる。
普通のヘルメットに抵抗がある場合は、この帽子ヘルメットがファッション的にも一番だ。
「そうだろう。こう被ると違和感ない」
「うん。ただの帽子にしか見えないよ~」
「で、電動自転車の起動には、このカードキーをこうしてディスプレイに当てると」
電動自転車が『ピッ』と反応して電源がついた。
これでもう準備万端だ。
「おー! もう動けるんだね、お兄ちゃん」
「そうだ。見てろ~」
俺は電動自転車に跨ぎ、さっそくスロットルを開ける。自転車がゆっくりと前進していく。
「動いたね!」
「一瞬で20km/hだぜ」
ひゅーんと風になる電動自転車。こりゃ速い! しかも漕ぐ必要がないとは、ほとんどバイクじゃないか。
かなりの速度で河川敷の道を爆走。
途中でUターンして、歩花の元へ帰還した。
「これが自転車だなんて信じられないよ~」
「凄い発明品だよな。歩花も乗ってみ」
「えー、ちょっと怖いな」
「大丈夫だよ。自転車と大差ないし」
「う、うん」
今度は歩花にバトンタッチ。ヘルメットも装着させた。
本当ならプロテクターとかもつけさせたいが、さすがにそこまでの準備はできていなかった。……まあ自転車だし、大丈夫だろう。
見守る中、歩花はスロットルを開けて前進。
上手く乗って真っ直ぐ走り始めた。
いい感じじゃないか!
当然エンジンなんてないから、大きな音もせず微かなモーター音が響くだけ。
10km/h~15km/hあたりで移動する歩花。楽しそうに走っているところを見ると、どうやら感覚は掴めたようだな。
しばらくして戻ってきた。
「どうだった?」
「すごいよ! こんな簡単に動けるなんて……感動した」
「そうだろう。これでコンビニも楽に行けるぞ」
「うん。電動自転車って便利なんだね」
「ああ。けど、いつか紺のように二輪免許を取ってバイクにしてもいいだろうな」
「それまでの練習で電動自転車にするよ~」
「その意気だ」
それからも歩花は、電動自転車に乗り続けていた。かなり気に入った様子だ。
しかも、あんな天使の笑顔を見せてくれるとは……買ってよかったな。




