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c8 ありがちな親のセリフ


お父さんは席を外している。

あえて外に出た。


私はテーブルを挟んで、母さんと向き合っている。


【chapter.8 ありがちな親のセリフ】


「話を聞くまでは、終わらないからね」

お母さんは静かな顔で時計を見ている。

私は黙りこくっていた。

現実時間で15分。体感時間で9時間は経過している。

そこからさらに10分。


「もう一度聞くわよ。どうして学校に行かなかったの」


それは、モリランドロップと久しぶりに会えた日、学校のテストをサボった日の事。


私は今、それを責められている。

しょうがなく私は口を開いた。

「数週間前、不登校の子と出会った」

「不登校?」

「モリランドロップ」

「え?」

「凄い良い子なの」

「お友達ができたって事ね」

「うん。その子が学校行かないから、私も行かなかった」

「ずっと遊んでたの?」

「うん」

少しの間を置いて、お母さんがまた口を開いた。


「よかった」


「え?」

「てっきり男かと思ったわよ」

「二十歳まで純潔は守るつもり」

その言葉に笑うお母さん。

「悪い男に捕まってるのかと、思ったじゃない」

「それで、お父さんいないの」

「そうよ」

「ごめん」

「でも学校は行きなさい」

「義務教育だから行くけど、モリランドロップがいかないならいかない」

「不登校の子だって、事情があるのよ」

「でも私には行けって言うじゃん」

「それは私が小雨の親だからよ。小雨がその子に学校行けなんて言う権利はないの」

「モリランドロップは、いつも学校行こうとしてる」

いつも制服着て、多分、学校に向かおうとしてる。私には見えないけど、通学路がめちゃくちゃ急な上り坂に見えていて、いつも登りきれないんだ。


「外国産まれての子?」

「モリランドロップはあだ名」

「そう。小雨、とにかく学校には行きなさい」

「普通に行ってるじゃん」

「テストサボったら意味ないでしょ」

「私はあの子の方が大切」


「そんな子、構うのは辞めにしなさい」


うん。そう言われると思ったから言いたくなかった。

そしてできれば聞きたくなかったスーパーありがちな親のセリフ。

義務教育を受けるとこういう思考になるのならやっぱりクソクソのクソ。


「お母さんには分からないよ」


私も義務教育で学んでいる国語の知識を駆使して、ありがちな台詞で返す。


「ねぇ、小雨はどうしたいの?」

「は?」

「将来、なりたいものとか、本当はあるんなら、教えて」

「ない」

「なら尚更、大学は出なきゃ世の中やってけないの。だから今のうちから勉強しなさい」

中学2年生の人間に大学の話なんてされても理解に苦しむ。

「中卒だって頑張ってる人いるじゃん」

「それは昔の話」

「お母さんが今の人の事知らないだけでしょ」

「小雨、どうして分かってくれないの?」

「毎日退屈。つまらない学校」

「みんな退屈でも通ってるの」

「モリランドロップは通ってない」

バンッ!とこれまたドラマみたいにありがちな感じでお母さんが両手握り拳で机を太鼓の達人。

「なら勝手にしなさい」

「そうする」

そう言って私は自分の部屋に戻った。


大人はみんな分からず屋だ。


わざわざ言わなくていいのに。義務教育なんだから、みんな通ってるから、学校に行くべきなのは私だって分かってる。

でもなんか、お母さんの言葉が、モリランドロップに向けて言ってるような気がして嫌だった。


あの子は毎日頑張ってる。あの子のこと、全然知らないけど、毎日毎日戦ってる。

たぶん89°はある通学路の坂を、毎日毎日、登ろうとしてる。


そうだ、思いつく。モリランドロップが学校に行くようになれば私も学校に行く。

彼女も学校に行く事を望んでいる。そうだ。私がアシストして、モリランドロップ登校を実現させればいいんだ。

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